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鐘が鳴ったから。

「速報です。
先程、東京都国分寺市内の路上にて行方不明となっていた滝川連司さんの遺体が発見されました。
現場には14と書かれた血痕が見つかっており、
同様の特徴が見られた連続殺人事件との・・・」

「物騒なぁ」
彼がボヤく。

カーテンから刺す光は、私の肌を温める。
近頃、話題になっている連続殺人事件は、まさにこの街で発生しているものだ。
この穏やかな冬の陽射しが照らすのは、殺伐としたものだと思うと皮肉なものだなと思う。

「あなた、今日は帰ってこれるの?遅くなるなら物騒だし気をつけてね。」

「どうだろう。重要な案件の前だから、泊まりになるかも。中々苦戦していてね。まさに暗雲って感じの状況だよ。」

「近頃、全然帰ってこれてないし、あまり無理はしないでね。私も家で1人ってのも中々寂しいものだしね。」

「出来るだけ買えるようにはするよ。それじゃあ、行ってきます。」

彼は行ってしまった。
1人、部屋に残される。朝食の片付けをしながら、これから先の長く孤独な時間を憂う。

とはいっても、やるべき事は山積みだ。掃除に食材の買い出しなどなど。主婦は多忙だ。

まずは掃除から
暫く、掃除をサボってしまっていた。
そのせいもあり、玄関にはかなり埃が溜まっていた。

かなりの時間熱中して掃除した。
隙間の埃との激闘は、今年のベストバウトになるだろう。
部屋を一通り掃除し終えて、完全に疲れ果て、箒を片付けた。

「疲れた〜〜〜!!」

部屋で叫んでみるものの返事はない。

ふと時計を見ると14時。
昼食はカップ麺で適当に済ませ早々にソファに寝転がる。
カップ麺は、彼が早朝に出勤する際、近頃朝が弱い私が朝食を作れず心苦しいので、用意していたものだったが、まぁいいだろう。

それにしても彼はこのところ帰りが遅い。仕事に苦戦していると言っていたが、会社で財宝ループでもされているのだろうか。まさか、浮気?
誠実な彼に限ってそんな事はないだろう。
思考が駆け巡る、私は心配性だった。

気づくとそんな一抹の不安をまぶたの裏に描き、眠ってしまっていた。

「ハッ!!
 今何時!?」

カラスが返事をするように鳴き、夕日が私を照らしていた。

事件の影響もあり、ここらでは普段よりかなり早く店を閉めてしまう事になっていた。
急いで夕食の買い出しに行かなければ。
電撃を打たれたように、焦りながら準備を済ませ、部屋を飛び出した。

マンションのエレベーターの短い待ち時間すら私には重大なロスのように思えた。

「はぁ…はぁ…」

なんとか間に合った。途中全速力で走る大人を指差して笑うガキがいたが、鉄槌を下す時間は私には残されていないのだった。

今日はカレーにしよう。
カレーならどこのスーパーにでも材料があるし、他のスーパーに回らなくてはいけなくなる心配もない。
材料といくつか備蓄の食材や日用品を買って会計へ。

「3031円になります。」

「あっ、すみません。これも」
レジ横にあったお菓子を一袋。これだけ頑張ったんだひとつまみの褒美があったって神は怒りはしない。

「3139円になります。

   ありがとうございました〜」

店員の活発な声が私に達成感を与えてくれる。
買ったお菓子をつまみながら、帰路についた。

「ただいま〜」
もちろん返事をする者は誰もいない。

買ったものをさっさと片付け、いざキッチンへ。

カレーは結婚してから一番作った料理だ。工程は手に馴染んでいる。今日も会心の出来だ。コクのあるルーに、私達の好きな辛めの味付け。興が乗って、サラダまで作ってしまった。買ってきた備蓄の野菜を使ってしまったがまた買いに行けば良い。
早く彼にも食べさせてあげたい。

「ふぅ」と一息。

夕食を作り終えた私のルーティーン。
それは、最近ハマっているゲームをやる事だった。
少し前に彼にオススメされて、始めたけれど今では私の方がハマっているくらいだ。
かなりの運ゲーなのだけれど、中々奥が深い。1年前にアプデが入る前はもっと面白かったとSNSで目にしたが、新参者の私には、今でも充分だった。

実を言うと、近頃、掃除をサボっていたのもこのゲームに熱中していたからだ。そのおかげで、かなり上達してきた。この前も、滝連打してきた相手に圧勝を収めた。

でも、どうやって勝ったんだっけ


キーンコーン 



コンコンコン

「おーい、帰ってきたよ〜。鍵忘れちゃった。開けて〜」

まぁいいか。そんな事は後で。

鐘が鳴った。鐘が鳴った。鐘が鳴った。

玄関へ向かう。
キッチンに置いてあった食器を手に取る。2点だっけ。まぁ初ターンだしこれで良い。

鐘が鳴ったから。

扉を開く。

「ただい」

先行は私だった。ああ、今回はあっけない。

ナイフじゃなくてフォークを取ってたのか。初手闇決めれちゃった。

「14」














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