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やさしい博徒(ちくま日本文学・色川武大)

色川武大を読み直してみた。
学生のころ勧められて読み、
「人生破綻している人が身辺記事書いた以上に面白い小説ってないよな」
と思った。
今もその考えはあって、西村賢太とか瀬戸内寂聴はやっぱり好き。

それから5年ほどのち、友人のコミュニティで「麻雀をみんなで覚えてやろう」という話になり、同一人物の阿佐田哲也『麻雀放浪記』を読んだ。本人をモデルにした博徒の坊や哲(ぼやてつ)かっこいい。
ストーリーの勢いもすごいし、半端者としての哲学やプライド、生きる知恵もリアル。結局麻雀は覚えられなかったけれど、この本に出会えてよかった。

中学校無期停学(終戦あたり)→職を転々(給料をもらえる前に辞めてしまうことも多いので博打で食いつなぐ)→出版社の小間使い→小説の新人賞受賞→稼ぎのために阿佐田哲也名義で麻雀小説を書き、大ヒット。

社会不適合者のキャラクター描写が素晴らしいと思う。
『怪しい来客簿』に出てくる、準ホームレスのような面々。
『風と灯とけむりたち』のひきこもり、サンゾウさん。
『オールドボーイ』の不良少年OB。
『男の花道』のカジノ賭博で捕まって警察署で逆ギレする天才棋士。

なぜ、こんな人たちが主人公になるのかと驚く。
キャラクターが極端すぎるので、モデルがいるんだと思う。
しかも、描き方に愛があるの。自分が欠点だらけなので、人の欠点が愛おしくてしかたがない、という意味の文があった。

自身がアウトローだけど、色川武大名義の作品はピカレスクロマンとは少し違う。生き馬の目を抜く、ある意味で華々しい世界の話ではない。
いいところがあるのに融通が利かなくて損をする人々の話だ。
クレイジーすぎて自分に引きつけるのは無理だけど、ともかく面白い人々。それを面白いと思えるのは、色川さんの優しさというフィルターを通しているからだと思う。

私たちはお互いに、助け合うことはできない。許しあうことができるだけだ。そこで生きている以上、お互いにどれほど寛大になってもなりすぎることはないのである。

『怪しい来客簿』より「たすけておくれ」

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