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Excelと重回帰分析を用いた固体ロケットエンジンノズルスロートの損耗を駆動する要因推定

【概要】
・多量の実験困難なノズルスロート損耗率の推定を目的としモデル作成
・回帰関数の決定と未知の材質(樹脂)について損耗率を予測した
・課題として他の要因を含めた再解析や回帰係数の信頼性向上などがあげられた

【免責事項】

・本記事は趣味・興味の範囲で行ったものであり、その結果が公的に検証されたものではありません。
・本記事に起因する損害の一切の責任はとりかねます。ご了承の上、お読みください。

1.背景

 学生ハイブリッドロケットOBです。主に燃焼、解析の分野で活動していました。今回、既製品モーターの代替品となる低コストグレインの開発を趣味程度に進めている過程で、ノズル材質の検討が必要となりました。
 ハイブリッドロケットの燃焼ガスは2000K以上の高温であり、アルミニウム、ステンレスなどの汎用金属や樹脂の大半は軟化、溶融、蒸発してしまいます。特にスロート部では熱負荷が大きくなり、燃焼ガスによる壁面浸食の結果スロート径が拡大、推力係数の低下へと繋がります。
 これらを考慮し、スロート材質検討の過程で以下の文献を目にしました。

文献1:低損耗・低コストノズルの開発,田原鴻一ほか,JAXAリポジトリ STCP-2017-014

 文献では計6種の金属、複合材、セラミック、樹脂などでノズルを作成し、燃焼試験を経て各材質ノズルのスロート損耗率データを得ています。アルミニウムは耐熱塗料塗布でも爆発飛散したとのことで、ロケット燃焼環境の厳しさを改めて感じます。再生冷却を行う液ロケはNASAが3Dプリンタをもちいてアルミニウムノズルを製作していましたが。
 とにかく、私は文献で使用した材質以外の樹脂、金属についてもノズル損耗率を知りたいと考えました。しかし文献は殆ど皆無かつ、一個人で実験も不可能なので、統計学・機械学習などを応用して推定に挑戦に至りました。博士課程在籍時に、機械学習を少しかじっていたのも追い風でした。

2.方法

2-1 概要
 教師アリ学習>回帰>重回帰分析という学問レイヤーです。重回帰分析での分析過程は以下にざっくりと
①要因 x1, x2, ・・・xnと目標変数yのデータを収集(学習データ)
②分析により、どの要因がどの程度目標変数yに影響を与えているか調べる
③目標変数yが未知のデータ要因 x1, x2, ・・・xnからyを推定」

今回は学習データが圧倒的に少ないので、結果の信頼性は十分検証する必要があります。あくまで、やってみたという段階で今後改善します。実際は説明変数の数×10ほどのデータ数が最低必要で、さらに回帰分析を行う上で望ましい各要因のばらつきや分布などがあるそうです。

2-2 重回帰分析
 以下を参考にしてください。私も参考にしつつExcelでチャレンジしました。

2-3 データ
 学習データについて、材質は紙ベークライト、A7075、グラファイト、CFRP、SKD11とします。文献1で使用されていたものです。
 目標変数は損耗率とし、要因は耐熱温度、密度、材質大分類としました。
 材質大分類とは、金属、樹脂、セラミック、複合材などの大まかな材質の分類を指します。これらカテゴリは質的指標なので、バイナリのダミー変数を用います。今回の材質では金属:A7075・SKD11、樹脂:紙ベークライト、複合材:CFRPとして3コラム作成しています。
データ一覧は以下の通りです。


表1 データセット

表1の説明です。A7075について、物性は塗布剤を考慮しないものです。また損耗率は便宜的100%としました。またグラファイトは金属/非金属の両性を持つので、金属のコラムで0.5の値で試してみます。

3.結果と考察

3-1 結果発表
 いきなりですがエラーです。「範囲Xの行と列番号は同じに出来ません」という文言で解析中断。根本原因はデータの少なさだったようです。回帰係数が得られる条件として、「(データ数) - (要因数) ≧ 1」だそうです。よってこの条件に従い要因を3まで減らし改善したデータセットが以下の表2です。

表2 改善後のデータセット

表2の変更点として質的要因を金属のみにし、樹脂や複合材はその他でくくりました。また密度の単位がが出典元ではkg/m3でしたが、数値上g/cm3の間違いとお見受けしますので、修正しました。
結果、回帰計算が完了しました。以下に結果を示します。

表3 重回帰計算結果

 表3上部、「回帰統計」の表中の「重決定 R2」は決定係数Rの2乗です。R2が0.7を超えてくると、モデルとして使用できるそうなので、今回作成した回帰モデルは予測をすることを許されたようです。(誰に?笑)
 その下の分散分析表は、QC検定2級以上を受けた人なら見慣れているはずです。
 更に下の表について、係数はモデル関数の各要因の係数を示します。tは寄与度で、目標変数に与える正負の影響度合いを示します。P-値はおおまかに言うと「出てきたデータが偶然かどうか」を見極める指標です。ただ今回はデータ数自体がすくないので、偶然もへったくれもありません。慣習的には0.05を下回る良いとされています。

3-2 回帰モデル作成
 表3から回帰モデル式を作成すると以下の通りです。損耗率をyとし
y= -0.04055×(耐熱温度) -10.0689×(密度)+108.7263×(金属)+45.2213
 で予想できます。

3-3 樹脂の損耗率推定
 回帰モデル式を考慮すると、今回は樹脂について推定するので(金属)の項はゼロとなり、要因は自動的に耐熱温度と密度になります。直感的には耐熱温度が高いほど損耗率は低くなると予想できますが、密度も多少影響するようなので、一応、計算してみました。

表4 重回帰モデルによるスロート損耗率の推定結果

 表4は耐熱温度200℃以上の樹脂・プラスチックについてノズルスロート損耗率の一覧です。最も損耗率が低く推定されたのはロスナボードで、逆に最高はPPS無充填となりました。その他も踏まえた結果は表3の t の値が反映されることから説明できます。結論として、ノズルスロート材質を考える場合は「耐熱温度が高い」かつ「高密度」のものが望ましいことが分かります。
 ただこの結果では、文献1の実験でアルミニウム合金ノズルが破裂試算したことや、SKD11の損耗率が表4のすべての損耗率を上回ることを説明できません。
これらの要因は学習データ数が少なかったこと、ならびに樹脂が紙ベークライトのみだったことです。表4の結果は「このような傾向がある」程度に捉えて頂きますよう、重ねてご了承お願いいたします。損耗率の数字を自信をもって「正しい」というためには、更に多くの学習データが必要です。
 最後に、各樹脂の密度出典は表中に記載の通りで、耐熱温度の引用元は以下です。

 4.まとめ

重回帰分析を用いた損耗率の推定により、ノズル材質の選定根拠を作りたい~と思い勉強・挑戦したがそううまくはいかず、、、データが足りないという致命的な結果になりました。が、方法論的にはデータ/数値でモノを言うためには有用と思いますので、データがある方はぜひこの方法を利用して材料選定の一助として頂ければと思います。

さいごに
・カイゼン、ご意見・ご要望など大歓迎です。また誤字脱字、間違いなどありましたらコメントください。




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