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頑ななひと

こんばんは、蔵前です。
私は息子が拘りが独特な人なので、出来うる限り拘りの強い人を理解しようと思ってましたが、それこそ傲慢だったみたいです。

拘りの強い方は小さな竜巻のようにやり過ごすしかなく、その竜巻がどこかの壁にぶつかって粉々に消えてまう事を止める事など出来ないんだな、そんなことを最近実感しました。

その出来事の発端は、Aさんという私と仲の良い女性同僚が、同僚の男性Bと一緒に帰路についてしまったことでした。
同じ沿線で最寄り駅が一駅違いならば、今まで一緒にならなかった方が珍しいものです。
そして、偶然には偶然が重なるもの。
彼らが乗った電車には、Cさんという同僚も乗っていた、のでした。

「Aさん!!Bさんとお付き合いされていたのですね。すっごくお似合いです。おめでとうございます」

翌朝、こんなセリフをCさんはAさんに掛けてきたそうです。
執務室のみんなの前で。

私が関わったのはこの後、廊下でもめている二人を目の当たりにしたところからです。
AさんはCさんを執務室から連れ出し、誤解だからと一生懸命Cさんを説得している所でした。

「わかってます。でも、私に誤魔化す必要は無いですよ。二人の幸せを応援しているということを、私はお伝えしたいだけです」

「だから、誤魔化してもいないし、本気で付き合ってないから。お願いだからそういう誤解を人前で言わないでくれる?」

「でも、おめでとうな良い事じゃ無いですか。お互いに独身ですし、大人なんだからいくらだって付き合って良いと思います。応援してますから!!」

すげえ、全然話が噛み合っていない。

事情の分からない私でも、その場面はそんな感想でした。
Aさんはもう噴火寸前なのに、CさんはAさんへの嫌がらせかというぐらいに、応援します!!を目をキラキラさせて連呼しているだけなのです。

ここは二人を引き剥がすべきかも。
とりあえず私はAさんとCさんの話題を変えるべく適当に話しかけてみましたが、Cさんは話題を変える事こそしたくなかったようでした。
ぐいっと私の腕をひっぱりAさんから引き離し、彼女の持論であるAとBの深い付き合いについて事細かに私に教えてくれたのです。

そんなのいいの!!
Aさんが凄くイライラしてるの、そっちこそ目に見えないの?

「だから付き合っていないし!!」

ほら!!弾けた!!

しかし、CさんはAさんが声を荒げてしまったそれを、なぜか恥ずかしがっているだけという風にしかとりません。

「もう!!大声出さなくても分かります。わかってますって。そういう事にしておきます!!本当に、私はお二人の味方だから、そこは安心して良いですよ!!」

Cさんは笑顔のまま執務室に戻って行き、あとには疲れ切ったAさんと私です。

「……付き合ってないから」

「それは弁解せずとも普通にわかるから」

「ありがとう。話が通じないって辛いね。あああ、どうしたらわかってくれるんだろう」

私はここでとりあえず話は終わったものだと思ってました。
しかし、Cさんの中では継続中だったのです。
昨日話があるとCさんが私の腕を引っ張り、何を言うのか聞けば、やっぱりAとBが付き合っているという自論でした。

「私には毎日二人を見てますもの。確信があります」

「あのね。ここは職場だし個人のプライベートを詮索するのは失礼な行為なんだから、そういうことは言わないようにした方が良いんだよ」

「でも、応援してるだけですよ。いいなって思う二人がくっついたなんて、なんて素敵だと思いませんか?」

「プライベートを語り合える友人同士で相談し合う中だったら、応援したりそのことを言い合えるけど、単なる同僚だったらそっとしておくものなの」

「蔵前さんはAさんとプライベートも相談し合っているってことですね!!それでやっぱり付き合っているって相談を受けていたのですね」

違うし、どう言えばわかってくれるんだろう。

「ええと、誰が付き合ってるとか職場では余計な事を言うべきじゃないの。もし、婚約とか結婚とか、そういう報告があって初めて応援してあげたりするものなの。何も言っていない本人に直接聞いたり言ったりするのは、一番しちゃいけないことなんだよ。他の人にも勝手に広めたり言ったりするのはやってはいけない事なの。わかる?」

「わかりました。順調に進んでいるという事ですね!!良い事ですね!!」

Cさんは軽い足取りで執務室に戻って行き、私は自分の物言いのせいでさらにCさんの思い込みを悪化させてしまったのでないかと不安になりました。
そこで今朝、Aさんに事の次第を告げ、謝りました。

自分のせいでCさんの思い込みが悪い方に行ったかもしれない。
本人に変な事は言うなと注意したから大丈夫だと思うけど、彼女が変な事を言ったら私のせいだ、ごめんなさい、と。

その後、CさんはAさんに話しかけ、Aさんがブチ切れる結果になってしまったのでした。

どうしてAさんとBさんが恋人だという妄想にCさんは拘るのだろう。
それよりも、本人に直接言うな聞くなそっとしとけと言ったのに、どうして彼女は突撃するのだろう。

Cさんはもともと天然っぽい所があってポツンの時が多かった人でした。
しかし、仕事も真面目で控えめで謙虚という可愛らしい人であるので、最近では人の輪の中に入れている感じでした。
だから間違った行動でせっかくの評判を落とすのは、とってももったいないと思うのです。

Flee As A Bird
ビートルズではなく讃美歌の方の曲で、ダビデに友人が「鳥のように山に逃げよ」と告げる場面が元になっています。