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NHKドラマ「神の子はつぶやく」元エホバの証人の感想


 2023年11月3日に放送されたNHKドラマ「神の子はつぶやく」について、元エホバの証人としての感想を書いてみました。

上から目線の「おいのりさん」

 主人公のハルカが高校でつけられた「おいのりさん」というニックネーム。
 私も似たようなテイストのニックネーム、小学校の頃につけられていました。
 新興宗教の中でも、特にエホバの証人の子どもは、学校生活の中で禁則事項が多く(国歌校歌ダメ、運動会の応援合戦ダメ、「いただきます」ダメ、などなど)、同時に悪目立ちする形での布教活動を余儀なくされるため、なかなか一般家庭の子ども達と馴染めません。
 家から家へ戸別訪問する布教活動で、たまたまクラスメイトの家を訪ねてしまったときの気まずさときたら…。消えてしまいたくなる恥ずかしさでした。
 当然、からかいの対象にもなりやすく、ハルカのように孤立して過ごす子どもも珍しくありません。
 その結果、幼い頃から教わってきた「この無理解な者たちをお許しください。彼らは自分が何をしているか知らないのです」という祈りが、傷つき孤立した心を慰めるためのデフォルトと化していきます。どれほど周りを見下す失礼な物言いか、本人達は気づいていません。それが普通だと教え込まれているからです。
 そして、「変な宗教をやっている、上から目線の嫌なやつ」として、更に溝が広がっていくことになります…そんな負のループが存在することが、ほんの数分の短いシーンで見事に描かれていました。

幼馴染との対比〜特権と性別〜

 ハルカの幼馴染の2世、教会のトップ信者の息子のヨシヤ君は、部活にも熱心に取り組む陽キャで、ハルカよりずっと青春を謳歌しているように描かれていました。
 実際、私が所属していたエホバの証人の会衆でも、父親が大きな特権を持つ家の子は、母親だけが信者で特権のない家の子に比べると、比較的自由にのびのびと振る舞うことが許されていました(私の家は例外的に厳しかったですが…)。
 特に男子は、将来家族を養うよう求められるため「社会の中で生きる術を学ばなければならない」という名目で、部活動への参加や大学進学が、女子よりも認められやすい傾向でした。
 なので、特権を持つ家の男子2世は、学校と会衆の顔を上手に使い分けて青春時代を過ごせている子もいました。
 父親がいないか、父親が信者になっていない家の子は、よほど裕福で寄付をたくさんしていない限り、母親が神経質にギスギスしていて、かなり厳しい制限をされていることが多かったです。
 これについても、本当にリアルな描かれ方でした。

告げ口しない幼馴染

 冒頭、幼馴染のヨシヤとのやりとりを見て、私はハルカとヨシヤが超うらやましくなりました。うらやま全開でした。
 告げ口しないどころか、世の遊びを一緒にこっそり楽しめる2世同級生の幼馴染!!こんな子がいてくれたなら、どんなに良かったことか!

 ドラマでは明確には描かれませんでしたが、エホバの証人は、子どもに非常に過激な体罰をすることでも知られています。
 禁じられていることをやった、とバレたら鞭。他の2世の子が、禁じられていることをやったと知っていたのに黙っていた、とバレても鞭。
 当然、子ども達は相互監視状態になり、ささいなルール違反であっても、告げ口し合うようになります。
 私の場合、同じ学校の同級生に非常に信心深い親戚の子がいたので、学校も親の監視下にあるような感じでした…どこにも息抜きできる場がなくて、つらかったなあ…。
 ハルカとヨシヤ、2人ともうらやましいー!!

 ただ、カラオケでのキスシーンには、嫌な思い出も刺激されました。
 ドラマの終盤でも触れられていましたが、ハルカは「断れない。何でも受け入れてしまう」性格に育てられてきました。特権を持つ家でのびのび育てられた2世男子が、厳格に育てられた2世女子が断りきれないのを良いことに、なし崩しに関係を持ってしまう、という事例を数件知っています。
 中には、そうやって半強制的に関係を持った2世女子が妊娠してしまったのに、知らぬ存ぜぬを貫いた2世男子もいました。会衆から排斥され、実家からも追い出された2世女子と赤ちゃんがどうなったのか、その後の消息は知りませんが、男子の方は今も何食わぬ顔で模範的な信者として振る舞っているそうです。
 あのキスシーンも、ヨシヤにとっては甘ずっぱい良い思い出かもしれませんが、ハルカは本当はどう思っていたのだろう、とついつい考えてしまいます。

未信者の父親

 ハルカのお父さんは、見たことも聞いたこともないレベルで、理想的なお父さんでした。
 妻の信仰は否定せず、宗教活動も認めて、でも子どもに対して妻がやりすぎていると思ったら庇いに入るし、たまには集会を休んで家族でレジャーに出かける計画もする。
 集会を休みたくない妻との口論の中で出てきた「ペンギンがサタンなのか!?」というセリフには、笑いました。最高!

 私の家は父も信者だったので、この点に関しては全て他の子から聞いた話になりますが、実際には、妻子だけが信者という家庭の夫は、妻のヒステリーを防ぐために、子どもに「お母さんの言うこときいとけ」「あまりお母さん怒らせるなよ」といった声かけをするだけで、子どもを庇いに入るような人はなかなかいないそうです。
 庇いに入るような夫は早々に疲れきって離婚してしまい、幼い子ども達は普段関わりの多い母親を自ら選んで、シングルマザー家庭になる、というパターンも多いそうです。

 このドラマのお父さんは、2世達の「こんなお父さんがいて欲しかった」という願望の具現化なのかもしれません。

家族の看取りより集会

 家族の成員が危篤状態でも、集会を優先して、病室を離れ教会へ向かうシーン。
 あれもとてもリアルでした。
 そのうち別noteにまとめたいと思っていますが、私も子どもの頃に集会のために、家族の死に立ち会えなかった経験をしています。
 でも、ドラマの中で今際の際に家族の名前を呼んだのに答えてもらえなかった、あの悲しい姿を見るまで、そこまでひどいことだとは思っていませんでした。
 もちろん一般的でない行動なのは承知していましたが、神を信じる家なんて所詮そんなもん、という感覚でいた自分に、冷水を浴びせられたような心地がしました。
 そばにいて祈るのではなく、集会で祈らなければならなかったのはどうしてだろうか、と初めて疑問を持ちました。

全体を通して

 後半のハルカが離教した後の内容については、まだ心の整理がついていません。もう少し心が元気なときに文にしたいと思います。
 総じて、2世の現実をリアルに描きつつ、救いがなさすぎる展開にならないよう、主人公をかなり運のいい境遇にしていたドラマ、という印象でした。
 特にハルカが「許し」を得るシーンには、涙が止まりませんでした。
 わかる。幼いうちに叩き込まれた神は、どこまでも追いかけてくるよね…つらいよね…。

 素晴らしいドラマを作ってくれたNHKさんに、心から感謝します。ありがとうございます。

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