見出し画像

私のカルチェラタン:新任教師のパリ研修記を書いていきます

林芙美子の『下駄で歩いた巴里』を再読しました。ベストセラーとなった『放浪記』の印税を使ってシベリア経由で一人パリに向かった芙美子。およそ半年をパリとロンドンで過ごします。帰国後出版したのが『下駄で歩いた巴里』です。芙美子のパリ滞在の様子が生き生きと描かれており、感じたことが素直に綴られています。パリ礼賛でないところに私は共感を覚えます。さすがベストセラー作家の文章、読み返しながらいつしか引き込まれていました。

芙美子がパリに行ったのは1930年(昭和5年)、27歳の時です。私も芙美子と同じ年齢のころパリを訪れました。もちろん時代は違います。私が行ったのは1970年代の終わりです。それでも今から40年以上も前です。1ドル360円の時代から変動相場制に移行して数年後のことです。私は下駄ではなくスニーカー(当時は運動靴)で行きました。芙美子の本を再読しながら改めて自分のパリでの日々を思い出し、回想記を綴ってみたくなりました。

私がパリに行ったのは教員になって2年目の夏です。海外研修としてソルボンヌ大学で行われた「夏期文明講座」に参加したのです。自主研修でしたので費用は自費です。初任給をためて費用に充てました。私は英語教師でしたが、フランス語は高校生の時から興味があり独学で勉強していました。大学でも英文学を専攻しながらフランス語を学び続けました。「英語の先生なのになぜフランス語の研修?」と聞く人もいましたが英語教師だから英語の研修しか受けられないというのも不合理です。教師の学びにジャンルの制限はありません。私の受けたのはフランス語の研修でしたが、実際に学んだのはフランス語だけではありません。海外で生活することによって教師として役立つことはたくさん得られました。

文明講座は3か月の通常講座のほかに短期の夏期講座があります。私が受講した夏期講座は4週間の集中講座で、フランス語のほかフランスの歴史や文化、政治などを学ぶプログラムも設定されています。フランス語のレッスンは毎日あり、1クラスは15名ほどです。私は中級クラスを受講しましたが、4週間でもかなり力を伸ばすことができたと思っています。その他のプログラムでは美術館や博物館を訪れたり、パリの町の歴史巡りをしたり、ロワール川の古城めぐりをしたりしました。文明講座には世界各国から受講生が集まります。寮でともに生活しながら異文化体験を存分に楽しみました。

パリは私にとって初めての海外です。学生時代に海外に行くなど私には考えられませんでした。経済的に無理でした。だから自分で収入を得てから行こうとずっと思っていました。講座そのものは1か月間ですが、講座終了後にはオプショナルのプログラムに参加しましたし、行き帰りの日程(当時の格安航空券は南周りが主流でしたので経由地での滞在時間を含めると片道2日かかりました)を合わせると40日間の日程になりました。夏休みをフルに使った研修です。新任教師が夏休みを丸々使って海外に行くなど今ならば承認されないかもしれませんが、当時は珍しくありませんでした。私の周りでも゙何人もの人が行っていました。

パリでの滞在期間は芙美子よりずっと短い期間ですが、私にとっては記憶に残る貴重な体験となりました。回想記は当時の日記、写真(変色して見るも無残なものばかり)、そして私の記憶を頼りに書いていきますが、何しろ40年以上も前のことですので記憶はあやふやな部分がたくさんあります。不正確な部分についてはご容赦いただければ幸いです。回想記はこのあと何回かに分けて投稿します。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?