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現実の延長線上に旅がある/クロアチア旅行記

現実逃避

無意識だったけどこれまでは「現実逃避」が旅の目的だったのかもしれない。逃避ならなるべく遠い方がいい、だから海外。言語も文化も食も国中に漂う匂いまでも異なる場所に身をおくことで現実に目を背け、逃避したい理由があったということ。

2019年5月に12年勤務した会社を退職。有給消化中にクロアチアを一人で旅した。

拭うことができない違和感、これが最大の退職理由。これまで年に1回連続休暇を取って海外に行くことが唯一のモチベーションであったがゆえ、時期はどうしても年度末になりがち。暑くもなく寒くもないヨーロッパを旅するのはハードルが高かった。早い時期に休暇を取ってしまえばモチベーションが下がってしまうから。真冬のヨーロッパはシーズンオフで冬の美しさも格別なのだけど、しっかり現実逃避できるくらいとにかく寒い。荷物がかさばる肩が凝る。

今回念願かなってベストシーズンの旅。クロアチアに決めたのは風水での方角がよく以前から気になっていた国だったから。一種のおまじない。どうせならいいことがあってほしい。会社の出社は4月末までだったのでストレスもいい感じに抜けていて、これまでの海外旅行とは一味も二味も違うものになる。出発前から気分は高揚していた。

旅人になる/遠出と旅の違い

クロアチアまでは直行便がなく乗り継ぎが必要。遠い。さすがにここまでくると遠足とは違う。

今回は旅行会社のフリープランを利用したが基本的な送迎はセットされていた。滞在3日目。その日は一日専用車での移動。首都ザグレブからまずプリトヴィッツェ湖群国立公園まで行き、その帰りにラストケ村に立ち寄るというスケジュールだったが、こちらの手違いで最初にラストケ村に立ち寄ってもらう交渉をしなければならなかった。60代くらいの寡黙な英語ドライバーに片言で申し出る。「I'm Sorry」。ため息をつき怪訝な顔。渋々了承してもらった。片道2時間半1対1…何とか挽回しないと今日一日が丸つぶれになってしまう。御多分に漏れず英語がまるで話せないが、あらん限りの語彙力で。

「Croatia is beautiful company!」

「Nice!」爆笑された。あーあ、バカ丸出し。すぐにCountryと言い直したけどCompanyを連呼。でもここをきっかけにコミュニケーションが弾む。ドライバーの名前はデュビ。「なんで一人旅?→一人が好き」「仕事は何してるの?→銀行。でも辞めた。→何するの?→…将来的にフリーランス、みたいな」「何で英語話せないの?→一応10年学校で習ったけど…→悪い生徒だったんだね→…」話し出せばとても親切でジェントルマンなデュビ。それにしても自分の思っていることをうまく伝えられないもどかしさといったら。

はるばる日本から飛行機に乗って来て、こうして車に乗って。ほのかな緊張感の中、アイデンティティをさらけ出す。デュビは私を旅人として捉え私は旅人になっていく。昨日までは遠出とも言えたかもしれない。でもこれはやっぱり旅だ。

目的を持つ

今回の旅では機会を見つけ積極的に英語でコミュニケーションをとってみようと決めていた。世界は広い、ネットの普及でどんどん境がなくなっている世の中。日本だけで日本に生まれ育った人たちに囲まれてばかりでは、今後生きていくうえでプラスになることはないように思う。完璧を目指す必要はないと開き直り、デュビには色々英語で話しかけた。おそらくマイナスから入った私の印象は彼の中で塗り替えられたようで、帰国してからもたまにメッセンジャーでメッセージをくれる。初めての外国のお友達。夢みたいだけど現実。こんなささいな行動が自信につながったりする。

現実を逃避する必要がない

これまでの旅と決定的に違ったのは、現実を逃避していないこと。確実に「非日常」ではあるけど、現実の延長線上に旅があったこと。現実は思い切って会社を退職し、そんな自分を肯定的に受け入れることができていた。だから滞在中に帰りたくないという思いではなく、むしろ現実のイメージが膨らんでいった。これが本来の旅の醍醐味なんじゃないかな。義理で会社用のお土産を購入する必要ない。逃避しなくていい現実を。自分の頭でしっかり考えて行動を起こして生きていく。もちろんたまには逃避しちゃってもいいとは思うけど。

行きたいときに行きたいところへ

暑くもなく寒くもないクロアチアは美しく快適だった。やっぱりベストシーズンの旅はいい。身軽でどこまでも歩いて行ける。完全独立を目指しながら7月から新たな職場での勤務が始まる。もちろんご縁をいただいた職場で自分が与えられるものを惜しみなく出し切りたいと思っているが、自由が制限されることは事実。「行きたいときに行きたいところへ行く」生活を送るためには何を捨て、何を選択していったらいいのか。生き方ありきの働き方。これが今後の私の人生のテーマとなった。

やっぱり旅はいいな。次はいついけるだろう。今から計画を立てよう。英語をもっと話せるように頑張ろう。現実と切り離すのではなく、非日常に身を置きイマジネーションを刺激して現実を豊かにしていく。それが私にとっての旅のありかた。



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