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後から来たる者すべてを塗りつぶしてゆかん

 ムッシュにある日問われた、曰く「何か隠していることは無いかい」と言う。つまりは秘密にしていることがあるのであれば早めに手の内を明かしてほしいというような話であるのだが、距離の近しい人には話さないが、このリンクを知っている人やSNSの引用にてこのnoteの醜態をさらして秘密を打ち明けているので、読んでくれれば嬉しい。

2021年の私といえば、旅に出ていた。旅は旅でも観光や巡礼や出張などではない。
配偶者探しの旅である。

全国津々浦々あちらこちらの街道を歩き、そこらじゅうの岩をひっくり返すような旅の末に出逢うムッシュとの邂逅までの道は骨折りであった。

京急を横浜で乗換した楽しいデートの思い出も、メッセンジャーの返信が1週間ほど途絶えてメンタルがヘラーしたり。
山手線沿線で餃子をつついた人。気は合うかなと思ったがうん蓄をべらべら話されたわけで、Kindleの本棚を見せてもらえば自己啓発書とぽつんと残る東野圭吾にそっ閉じしたり。
アナハイムの子とお茶したが、タイ料理のディナーの誘いを宅配受取で断ったら、裏切り者とののしられた後ゆりかもめ新橋駅に置き去りにされたり。

一番ひどかったのは、松戸や安孫子や三郷で野球するのに誘われた子がなかなか人数の多い友達の輪だと思っていたが、ふたを開ければネズミ講の一味であったり。

この疫病の流行下、貴重な時間である宣言と蔓延防止以外、関東各所へのお出かけは徒労に終わった。
訪れた各駅についていだく印象は嫌な思い出にすり替わった。

しかし、またそこへ新しく列車はやって来るのである。それがムッシュの事だ。
銀の鈴で待ち合わせをして、肉を食べたい所望をつばめグリルかどちらかということで焼肉を食べに行った。副都心線に二人で乗ったら、行き先表示を見て横浜まで乗って行っちまおうかと盛り上がったのである。私は夜景で横浜の景観を見るのは初めてであった。関内には所属していた道場があるというのに。
中華街のチャーハンがおいしかった。下北沢の王将も美味しいのは知らなかった。
この1回前の約束を私がチョンボしたので帰りの横浜駅でお詫びに渡したおかしを、後日遊びに行ったお家でまるで神棚のごとしテレビボードに飾って置いてくれていたので嬉しかった。
横浜の次の週に我孫子の駅そばでおなかを膨らせてから、水戸偕楽園へ出向いた。
池袋で映画を見に行った日も新宿でワードローブをそろえた日もあった。
新橋に数日留まって身支度を済ませ

そして、冬の入り口に京急へ乗り換えて羽田からムッシュは大陸へ飛び立っていった。
なんと綺麗な回収であることか。私一人で冬のあいだ、所要でそれぞれの駅で降りている。が、ムッシュと来たことを思い出している。上から塗りつぶされたのである。

彼は今遠い欧州の地で、王将で懸賞で当てたお皿の食事で日々を過ごしている。


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