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父を送る

初冬の控えめな暖かい陽射しの下、八百屋さんで賄いのポトフ用の人参を買って、ゆっくり歩いた。
毎年、桜の木の紅葉黄葉落葉が綺麗だきれいだと言っている。今年もまた、そう思う。一枚の葉にいろんな色が入っている。
錦織りなす紅葉の絶景もよいけれど、近所の木の風情にもしっかり季節が染みこんでいて心和む。

ぽっかりと、なんだか不思議に空いてしまった期間。
居ないのだけれど居るような感覚。
武田百合子「富士日記」はところどころ暗唱するほど読んだ本だが、「(愛犬)ポコが死んだとき空が真っ青で。」という一行も忘れられない。
金曜日も、空が真っ青だった。一片の雲もなかった。

「夜廻り猫」に、「縄張りも命も借りて使っていつか返すもんだ」という台詞がある。全部のことの答えがここにある。穏やかな短い冬の日だまりに、ふと、つーっと体温の水がこぼれる。






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