東京高判平22・5・27高刑集63-1-8:供述不能の意義,証言拒絶の場合

1.事実の概要

 被告人は、共犯者Aらと共謀の上、被害者を殺害してその死体を遺棄したとの事実により起訴された。本件は裁判員裁判制度開始前の事件であるが、原審は、本件を公判前整理手続に付し、争点および証拠を整理した上、審理予定を定め、約2か月間にわたる合計7回の公判期日を指定した。共犯者Aは、立証趣旨を「殺人及び死体遺棄の共謀の状況、犯行状況等」とする検察官請求の証人として、原審第4回公判期日に出廷し、宣誓したが、ごく一部の尋問に答えたものの、事件の内容になると、殺人には関与していないとだけ述べ、その余の大半の尋問に対しては、自らも本件の共犯者として起訴された刑事裁判が係属中で、殺人につき否認しているので、ここでの証言が自己の裁判で不利益に使われたくない、などどして証言を拒絶した。検察官は、同じ原審第4回公判期日において、共犯者Aの検察官調書を刑訴法321条1項2号前段の書面として請求し、原審は、第6回公判期日においてこれを採用した。

2.判旨(原文を自分なりにわかりやすく理解できるように,表現を変えている箇所がございます。正確な表現については、判例評釈書あるいはサイト等でご確認下さい。)

 破棄差戻し。

(i) 証人が証言を拒絶した場合にも、刑訴法321条1項2号前段によりその証人の検察官調書を採用できる(最大判昭27・4・9刑集6-4-584)。しかし、同号前段の供述不能の要件は、証人尋問が不可能または困難なため例外的に伝聞証拠を用いる必要性を基礎づけるものなので、一時的な供述不能では足りず、その状態が相当程度継続して存続しなければならないと解する。

 証人が証言を拒絶した場合については、その証言拒絶の意思が固く、期日を改めたり、尋問場所や方法に配慮しても、翻意して証言する見通しが少ないときに初めて、供述不能の要件をみたすといえる。もっとも、迅速な裁判の要請も考慮する必要があり、事案の内容、証人の重要性、審理計画与える影響、証言拒絶の理由および態度等を総合考慮して、判断すべきである。

(ⅱ) 本件については、Aは、自らの刑事裁判が係属中であり、弁護人と相談した結果、現時点では証言を拒絶したい、としているにすぎず、他方で、被害者の遺族の立場を考えると、自分としては証言したいという気持ちもあるとまで述べているのであって、自らの刑事裁判の審理が進み、弁護人の了解が得られれば、合理的な期間内に証言拒絶の理由は解消し、証言する見込みが高かったと認められる。もっとも、原判決は、A自身の公判が終了した後に証言する意思がある旨を明確にしていないことを供述不能の理由の1つとしている。しかし、供述不能に関する立証責任は検察官にあるのであって、Aの証言意思、裏返せば証言拒絶意思が明確でないということは、その点を検察官が立証すべきであったといえる。

(ⅲ) 本件の公判前整理手続において、検察官は、Aの取り調べ状況等に関する捜査報告書等を証拠請求するに際し、Aが全く証言しない可能性を考慮してのことであると釈明している。原審は、この時点でAの証言拒絶を想定し得たはずであるから、検察官に対して、Aの証言拒絶が見込まれる理由につき求釈明し、Aの審理予定を確認するなどした上、Aが証言を拒絶する可能性の低い時期を見極めて、柔軟に対応することができるような審理予定を定めるべきであったのに、原審はそのような措置を講ずることなく、審理予定を定めている。

(ⅳ) 本件が殺人、死体遺棄という重大事案であること、被告人が犯行を全面的に否認していること、Aは共犯者とされる極めて重要な証人であることなどを考え併せると、このような公判前整理手続の経過がありながら、Aが前記のような理由で一時的に証言を拒絶したからといって、直ちに前記の角検察官調書を刑訴法321条1項2号前段により採用し、有罪認定の用に供した原審および原判決には訴訟手続の法令違反がある

3.判旨のまとめ

◇供述不能の意義
刑訴法139/ #証言拒絶の場合_321条1項2号前段で証人の検面調書採用可。but,供述不能は,証人尋問が不可能or困難なため例外的に,伝聞証拠の必要性を基礎づけるものなので,#一時的供述不能でなく_相当程度継続し存続する必要あり。拒絶意思固く,期日,尋問場所,方法に配慮しても,翻意し証言する見通しが少ないとき等。
[東京高判平22・5・27高刑集63-1-8『刑事訴訟法判例百選』10版〔80〕参照]

以上


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