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私の好きな映画のシーン(59)『パリは燃えているか』

 1960年代は第二次世界大戦をモチーフにした戦争映画が数多く製作され、『史上最大の作戦』(1962年)、『大脱走』(1963年)や本作(1966年)などを数年遅れでテレビで見たものです。かなりの本数を見ましたが、心に残る名作(エバー・グリーン・タイトル)は、ドイツ軍を単純に悪とは描かなかったのではと思っています。
 しばらく前にNHKのBSで本作の放送があったので録画し、何十年ぶりに見たのですが、やはり素晴らしい作品でした。
 俳優陣が豪華だということも、もちろんあります。カーク・ダグラス、グレン・フォード、イヴ・モンタン、ジャン=ポール・ベルモンド、ロバート・スタック、アラン・ドロン…等々。なかでも、パリを占領するドイツ軍の司令官コルティッツ将軍役のゲルト・フレーべは抑えめながらも、総統のヒトラーに対しながら、彼なりに身を処す演技が素晴らしく、本作の心棒になっているようです。スウェーデン領事役のオーソン・ウェルズとの対峙もまた味のあるシーンで、名優とは抑えに抑えた演技をするものだと改めて考えさせられました。
 本作品は、ドイツ軍占領下のパリを解放すべくレジスタンスが動き出し、やがてノルマンディに上陸した連合軍がパリに入り、パリが解放されるという実話を描いたものですが、戦争というものがもたらす兵士の生死の残酷さ、喜びと悲しみを数々のシーンで描いています。
 『禁じられた遊び』(1952年)や『太陽がいっぱい』(1960年)で実績を上げてきたルネ・クレマン監督らしく日常性のなかにある大きな歴史のうねりの描き方に魅入られながら、気づけば約3時間の本作を見てしまいました。
 そして、脚本はフランシス・フォード・コッポラ(ゴア・ヴィダルと共作)です。群像劇でもある本作の登場人物のそれぞれの人物像を巧みに描き語らせながら、この大作のなかに自然と溶け込ませる筆致には驚きます。派手なセリフなど一切ありませんが、小粋なセリフが時々挟まれるのも、観客の心の動きをよく分かっている職人ならではだと感服します。1939年生まれのコッポラですから、当時は27歳。本作の6年後に『ゴッド・ファーザー』を監督(と脚本)しますから、当時はすでに実力派の若手だったとは思いますが、流石、コッポラの脚本でした。
 そして、私が好きなシーンは、最後のところ。ノートルダム寺院の鐘が鳴り響く解放されたパリの映像が流れ、突然、倒れた電話器のアップのシーンになります。埃まみれのテーブルのうえに打ち捨てられた受話器の向こうから「パリは燃えているか?」と叫ぶ声がします。それが誰の声かは語られません。ただただヒステリックに繰り返すその声を、観客の誰しもがヒトラーの声だと理解するはずです。
 若かりしころ画家を目指し挫折したヒトラー。そして、パリという芸術の街にかなりの劣等感を覚えていたはずのヒトラー。繰り返される声は、正気を喪失した独裁者の虚しさを語っているようです。中嶋雷太

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