サッカーW杯2022感想文2:イラン1

0.はじめに

サッカーW杯初戦、優勝候補イングランド代表に前に、大量失点で沈んだイラン代表。世間では、アジア最上位国の体たらくに批判が集まっている。しかし、私個人は、そこまで非難する必要はないと思う。なぜならば、後半のスコアだけで見れば、2-3である。善戦とは言える。むしろ褒めてもいい。では、何がまずかったのか?それを含めて、イラン代表について、やや擁護的に語りたいと思う。

1.褒めていいところ:なりふり構わず2点取った

当然、この点は、褒めていいと思う。2点目のPKはともかく、1点目のFWタレミのゴールは、経験豊富なイングランドDF陣の裏を掻いた、見事なゴールだと思う。日本代表には、そんな芸当ができるFWは見当たらない。彼は、一瞬であれば、イングランド代表DF陣を翻弄する能力があることを示した。

そのことは、復帰したばかりのエース、アズムンにも言える。万全でない中、彼は、イングランド代表DF陣の裏を掻くことに成功する。ゴールキーパーの好守に阻まれたが、シュートも含めてほぼ完璧であった。

アズムンがどこまで復調しているのかが未知だが、少なくとも彼ら2人は、W杯でも十分戦っていけるだけの資質があることは分かった。もちろん、世界の超一流とは比べ物にならないにしても、そのことは褒め称えていいと思う。

かなり単純な物言いになるが、イングランド代表に牙を剥けるならば、残りのアメリカ代表、ウェールズ代表相手ならば、それなりに期待していいのではないか。かなり希望的観測になるが、2位争いが混沌として来れば、イラン代表にも、もうワンチャンス出てくるのではないか。少なくとも、この試合だけで、イラン弱すぎると断じるのは早計だと思う。

2.何がまずかったか:単純に言えば…

そう考えると、前半が悔やまれる、という感想に尽きる。では、何がいけなかったのか。結果論になるが、5バックに突然変更したことだろう。

もちろん、イングランド代表相手に、守備を固めたくなるのは理解できる。ただ、現在のサッカー界においては、守備の人数を増やせば守れるという考え方は、時代遅れだと言ってよい。

5バックにすること自体は作戦であり、その選択自体は否定できるものではない。ただ、何の狙いもなく5バックにするのは、無意味なことだ。単純に言えば、「カテナチオ」でW杯を制覇してきたイタリア代表が、予選すら突破できないのは、象徴的な出来事だ。

人数を掛けてゴール前を固めても、イングランド代表のパス回しの前に、次々と「壁」は引き剥がされていった。象徴的なのは、イングランドの1点目であろう。ゴール前に人数はいるのに、誰もヘディングで競る選手はいなかった。完全に、DF陣が混乱していたことの証だ。

また、W杯初戦ということもあって、イングランド代表だって、少なからず固さはあっただろう。でも、相手が勝手に引いてくれるのだから、やりやすかっただろう。圧倒的なパス回しでリズムを作った結果が、前半の3得点に結びついたと言える。

要は、前半は、イランの完全なる作戦ミスなのである。では、その作戦を立てたのは?はい。結論です。カルロス・ケイロス監督でしょう。私は、イランの最大の不安要素は、状況を完全に見誤った「10年以上前は名将と呼ばれていた」彼だと考えている。いくらアジアレベルで見れば、素晴らしいFWがいても、カルロス・ケイロス監督が再び状況を読み違えば、やはりイラン代表はアウトサイダーで終わるでしょうね。

3.おわりに

イングランド代表相手に守備を固めるのは、当然だと思う。それは確かである。ただ繰り返すが、5バックにしたからと言って「守備を固めた」と言える時代ではないのだ。そこに何らかの意図がなければ、たちまちメッキのごとく剥がれてしまう。

例えば、2010年のW杯において、日本代表は「超守備的な」布陣を敷いた。しかし、そこには、どう守るか、さらには少ない攻撃をどう得点に結びつけるか、共通の意図があったと思う。それが、予選リーグ突破に繋がったと言える。もちろん、決勝リーグでは通用しなかったが、「守備的布陣」を敷くこと自体は、作戦の一つであると考えている。

私個人は、もし仮にイングランド相手に一泡ふかす意図があったならば、それはハリー・ケイン潰し以外になかったと思う。そこを徹底的に潰せば、若手主体のイングランド攻撃陣は、少なからず動揺したと思う。逆に言えば、その意図なしに5バックにしたならば、ボコボコにされて当然なのである。

さて、イラン代表は、最大の山は越えたと言える。残るは、アメリカ代表、ウェールズ代表である。イングランド代表に見せた、必死の攻撃を活かせれば、イラン代表にはまだ勝ち点を積み上げる見込みがあることは証明したと思う。あとは、その可能性を、W杯直前に唐突に担ぎ出された「かつての名将」が、きちんと作戦に結びつけてくれるだけである。

4.付け足し

副題は「イラン1」と銘打ったが、第2弾はあるのだろうか。それもまた、疑問である。

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