昼寝

主に昼寝をするなど

 
1週間が過ぎただけなのに、今日は何故か久し振りの土曜日だと感じる。

このところ奥さんが同窓会の幹事会だと言ってよく出掛ける。今日も土曜日だというのに朝から起きて風呂に入り、いそいそと手帳だ、資料だと準備を始めた。そんなに昔の男に会うのが楽しみかと言うと、やあねえ、そんなんじゃないわよと返される。しばらくそんなやり取りをしていたら、何だか本当にそういう刺激がないとままならなくなった夫婦みたいに思えてきたのでやめた。

奥さんが意気揚々と出掛けた後、家のなかが一気に静かになった。私の実家はかつての父親の仕事のせいもあって、四六時中テレビがついている。奥さんの実家も同じようなもので、結果ウチもテレビがついていることが多いのだが、私が余計な音があまり好きではないので、大体の場合音を小さくしている。そして奥さんがいなくなるとそれも消し、いよいよ家の中は時折ネコがたてる物音か、外から聞こえてくる街の音しかしなくなる。

しんとした部屋で冷たい白ワインを飲みながら、アマゾンでお茶とビールとネコのエサを注文した後、ずっと楽しみにしていた『掃除婦のための手引き書』を読み始める。

なんだ、この本は。モノローグの形で様々なエピソードが語られていくのだが、その全てが救いがない。市井の人間が感じる生きることのやるせなさが総天然色で描かれている。それと翻訳が抜群にいい。これは凄い本を開いてしまった。読み飛ばすのは勿体ないので、ゆっくり読もう。

しばらく読んで少し眠くなったので、昼寝をしようと寝室に向う。私は元々昼寝が苦手だ。覚醒貧乏性とでも言うのか、起きている以上は何かしないと勿体ないという気持ちが常に働いている。結果あれこれと動き続けて、最後に酒を飲んで気を失う。

なのでこういう時には努めてベッドに横になるようにしている。すると確かに眠れるのだが、今日は横になって数分でまず足元にメインクーンが来た。次いでうとうとし始めた頃、茶トラが「どこへ行った!」とばかりに鳴きながら現れ、私の脚の間に飛び乗って太股に顔を埋めて眠り始めた。

これでは寝返りも打てないが、仕方がない。身動きの取れないまま眠りに落ちると、先ほどまで読んでいた、孫に自分の歯を麻酔なしで抜かせる歯医者のエピソードが夢の中で再生された。

「「抜けえ!」祖父の口から細い赤い滝がひとすじ顎をつたって垂れた」

悪夢とはこのことかと思いながら目が覚めると、夜の7時半だった。いつの間にかネコたちはいなくなっていて、私は一人で掛布団を抱き枕のように抱えて横を向いて寝ていた。

まったくなんて本だと思いながら居間に戻ると、2匹ともそろそろご飯じゃないですか、ダンナみたいな顔をして私を見上げている。奥さんはまだ昔の男(と女)の元から帰ってきていない。

外は雨が降ったようだが今は止んでいる。こうも雨続きだとバイク屋さんに預けっぱなしのドゥカティを取りに行けないのだが、仕方がない。ネコのご飯を済ませて続きを読むかと思いつつ、まずビールを注いで椅子に座ると、それを見かねた茶トラに大きく「ニャー!」と鳴かれてしまった。

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