街並み

【勝手に原風景】小鹿田焼の里

 
縁もないのに、勝手に原風景と思っている場所がある。

大分県日田市に、小鹿田(おんた)地区というところがある。その名の通り、小鹿田焼という焼き物の産地である。

こことその技術的な祖先にあたる福岡県の小石原地区は、飛び鉋や刷毛目といった装飾を施された陶器の産地として名高い。かつての民芸運動の際には、柳宗悦やバーナード・リーチなどによって、その作品群が盛んに紹介された、らしい。

ここでは水力を使った唐臼というもので陶土を作る。見ての通り、巨大なししおどしのようなものの端に水が溜まり、一定の水位になるとそれが傾いて水がこぼれ、その反動で土をつく。水と木と土が発する柔らかい音の連鎖は、いつまでもその様子を見ていたい衝動にかられるほど、人間の心の柔らかい部分を掴む。

端から端まで15分もあれば歩けてしまうほどのエリアの中に、10軒ほどの窯元が並び、思い思いの形でその作品を展示、販売している。

今回私が行った時には、ちょうど大きな民芸祭のようなものの直前にあたり、どの窯元の店先に行っても、これから登り窯で焼かれる大量の陶器の原型を乾燥している風景が見られた。その分お店に並んでいる作品は多くはなかったが、これはこれでまた趣のある風景だと思う。

初めて訪れたのはもう4、5年前になるだろうか。その時から、私にとってこの小鹿田に流れる空気や土をつく音、そして緑豊かという言葉では表しきれない周りの風景は、生まれる前から知っていた正に原風景のように思えて仕方がない。

この地域は2年前の豪雨で甚大な被害を被った。現に今もあちこちで大規模な土木工事中である。我々はよく被災地には今は行かない方がいい、などと考える。しかしかの地にとっては、その存在を忘れられることが、一番の恐怖であると思う。

誰にでも教えたくなる場所ではないが、しかし是非多くの人に行ってほしい場所、そして私の原風景のひとつ、それが小鹿田焼の里である。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?