夏、線香花火が教えてくれたこと
すっかり夏ですね。暑いですね。
夏の風物詩と言えば…
そう。花火。
夜空に弾けて美しく散っていく花火も、手元で小さく燃える花火も、刹那的で美しくて、夏の感じがしますよね。
しかし、一番夏を思い出させるもの。
それは、線香花火ではないでしょうか。
今日はそんな夏の風物詩、線香花火のお話を書こうかなと思います。
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夜風が気持ちいい夏の夜。すっかり暗くなった空、しんと静まり返った空気。一瞬で終わる花火、最後に残る線香花火。
”もう、終わりだね”
”早いね”
心なしか小声になる、楽しさと切なさと少しの緊張感。線香花火を1本づつ手に取り、みんなで肩を寄せ合って輪っかになったり、横に並んだり。ちょっとした神聖な儀式みたいだ。火をつける。徐々に赤く燃える火の玉。
”ちゃんと弾けるかな。”
”落ちないかな。”
”がんばれ…!”
わが子の成長を見守る親のような気持ちで、赤い火の玉を見つめる。
揺れないように。落とさないように。
”どうか動かないで私の手。風よどうか吹かないで。”
手を動かしたらこの子が落ちてしまうから。
赤く熟れた小さな実が次第に大きくなり、ぱちぱちと弾けはじめる。
”ほっ”
気づいたら止めていた息を、ゆっくりと吐き出す。まだ油断はできない。
”綺麗だね”
”…うん、本当に綺麗”
大きな声を出したら赤い実が落ちてしまうんだとでもいうように、小さな声で囁き合う。目はその光から離さない。ぱちぱちと大きく弾ける赤い玉。
”あっ”
ぽとり、と地面に落ちる。
――じゅっ
一瞬にして消える赤い玉。まるでそこには何もなかったかのような気分になる。
”…落ちちゃった”
とちょっと悲しくなったり、「悔しい!」と叫んでみたり。まだ消えていない線香花火に、視線を送る。
”がんばれ”
自分の線香花火は落ちてしまったけど、せめてその子は。そんな気持ちで見届けようとする。
――すん
徐々に火花が弱まり、赤い玉が闇に吸い込まれる。一瞬の静寂と、線香花火の残り香が漂う夏の夜。
そうしてまた、線香花火を手に取る。
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線香花火はどうしてこんなに人を惹きつけるのだろう。
決して派手ではなく、静かに燃え、弾け、時には道半ばで息絶えてしまう。
そのたびに少し悲しい気分になる。
それでも人は、線香花火をするのだ。
それはきっと、線香花火がまるで人生みたいなものだからかもしれない。
燃えるまでの成長過程の危うさ、上手く弾けた時の美しさ、消えるときのあっけなさ。
それら全て含めて、人生は美しいのかもしれない。
あっけない人生だからこそ、ちゃんと燃えつきたい。
令和最初の夏、22歳の私。
線香花火に魅せられて。
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