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こーひー

久しぶりにコーヒーを飲んだ。思い切って飲んだよ。

20年くらい前から、大好きだったコーヒーが飲めなくなった。まず匂いが耐えられない。そして少しでも飲むと具合が悪くなる。

今日、海外在住の友人と3年ぶりに会った。彼女がおいしいコーヒー店に寄りたいというので、わたしは意を決してお伴した。その店は、喫茶店ではなく、老舗のコーヒー専門店。メロンソーダとか、アールグレイとか、そういうものは置いてない。『わたしはコーヒーが飲めない』と言えば、友人はきっとガッカリする。だから『コーヒーが飲めないのではなく、飲みたくないから飲んでいないだけだ』と自分に思い込ませる努力をしつつ、店のドアを開けた。

わ!素敵!と思わず声に出るくらい、ステキなお店だった。どのくらい素敵かという話を書き始めると、それだけで長い話が書けると思うので、今日は割愛する。ここがコーヒー専門店でなければ、わたしは日参したいくらいのステキさだった。

メニューには、当然ながらコーヒーしかない。一つひとつのコーヒーの名前の横に、濃いか薄いか、深いか浅いか、生産地はどこか、みたいなことが書いてある。

わたしは薄いブレンド(アメリカンではない)、友人は濃いブレンドを注文し、それぞれフルーツケーキも頼んだ。

おそるおそるカップに口をつける。ひと口飲んでみる。友人は「あっ!おいしい!!!」と感激していた。わたしは「ほんとね」と相槌を打ったが、味はわかっていない。コーヒーって、こんな味だったっけ?口の中いっぱいに広がる焦げ臭いような匂い。おそらく、これもまたおいしい一杯なのかもしれないのだけれど、すでにコーヒーの経験値がリセットされたわたしには、未知の世界に足を踏み入れたような新鮮さと怖さがあった。これを飲むことでまた、具合が悪くなるのではないか。フルーツケーキがとっても美味しくて、気持ちを和らげてくれた。

そうこうしながら1時間かけて、どうにかこうにか一杯を飲み切った。初めてコーヒーを飲んだ小学生みたいな顔になっていやしないかと不安だったが、なんとか乗り切った。

そのあとずっと、口の中にコーヒーの匂いと味が充満していた。それから2時間、買い物につきあったが、ずっとコーヒーの中に浸かっているような気分だった。

買い物の後、またお茶をした。今度は無印良品のカフェだったので、種類はいろいろ。わたしは琉球チャイを飲んだ。それもまた初めての味だったので、口の中は戸惑っていた。

家に帰って、『久しぶりにコーヒーが飲めたよ!』と家族に報告してもいいのだが、自分だけが知っている感じもいいなと思って黙っておいた。
今度こっそり、あの店に行ってみるか。。。

ちなみに、わたしたちの後から入ってきた常連客らしい女性が、「皆川さん、来られたんですってね!」と店主に話しかけていた。「そう、思いがけず、来てくださって」「わたし、偶然会えたから、握手してもらったんです。皆川さん、ちょうど空港に行くところだったみたいで。このお店のコーヒーが美味しかったって言われてましたよ」

皆川さん?そうか、すぐそばの美術館で「ミナペルホネン/皆川明 つづく」がもうすぐ始まるのだった。

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