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あなたの原動力は怒りですよ

『オイリュトミー」を習っている。これは哲学者であり教育者であるルドルフ=シュタイナーが考案した身体表現の芸術で「ヨガとコンテンポラリーダンスが混ざったような感じ」と言うのがかなり近い気もするが、本当は説明するのがとても難しい。

先生はよく「つま先へ宇宙からのエネルギーがまっすぐ届く感覚で」とか「首から足が生えているような気持ちで」とか言う。でも、言う前に「いいですか、ちょっと変なことを言うのですが、大丈夫ですかね?怪しいでしょ」とはにかむ。わたしたちはふふふと笑いながら、それを聞く。

ある時、先生が静かに「あなたが文章を書く、表現の原動力はなんだと思いますか?」とわたしに話しかけてきた。「もしかしたら、怒り?ですか?」と答えたら、「そう!そうです!」と声をはずませた。実に嬉しそうだった。

わたしって、そんなに怒りっぽいかなと思ったら、そういうことではないらしい。内側に熱を蓄えて、「ねばならない」という力に動かされている。それは力強く、怒りの感情にも似て、一気に物事を押し進める。「『こうあらねばならないからやる』ではなく、『こうしたいからやる』と思うようにするといいですよ」。わたしを褒めたわけでもないし、否定でもなかった。『ただ、そのようにある』ことが、わかればいいのだと教えてくれたのだ。

オイリュトミーは、自分の内面を見つめ、こうありたいと思う方向へと手足を運び、解き放つ。あるいは、宇宙からのエネルギーを集め、ぎゅっと蓄える。ひとつひとつの動作が、自分の存在を明確にし、内在する不可解なものを整理していく。
「先生、オイリュトミーを続けていたら、悟りがひらけて、もう書くことができなくなりそうですね。」と言ったら、「そういう人もいましたね。『わたしはもう、全部がこれでいい、と納得した』と言っていました。」

その境涯に達するまではまだ時間がかかるだろうから、これからもオイリュトミーを続けていこうと思っている。まだ先は長い。

しかし、その先生がいま、ベルリンの集中治療室にいる。今週、パフォーマンスの公演に出かけ、リハーサル中に倒れたと聞いた。昏睡状態が続いているそうだ。いつ日本に帰れるかわからない。

先生。心配です。離れた場所から、宇宙の力を頼って、回復を祈ります。

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