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UH-OH

インクトーバー2022 day29 お題は『おっと』

何もないところでつまずく。ちゃんと持ったはずの食器を落とす。ほんの数ミリの誤差でドアや壁にぶつかる。加齢のせいか、運動不足のせいか。そんなことが増えた。そんな時、つい「おっと」と声が出る。最近、何でもかんでも「おっと」と言っている気がする。

昨日、家の鍵を落とした。鍵を閉めた後、ズボンの後ろポケットに入れて近所の定食屋へ行き、お弁当を詰めてもらって帰るとポケットに鍵がない。「おっと?」わたしはポケットを探るが、ない。幸い家の中には家族がいたので入れてもらえたのだが、とにかく持ち物を全部ひっくり返しても、財布の中とか全部のポケットの中とか、探しに探すが出てこない。定食屋までの道をスマホの懐中電灯機能で照らしながら歩く。わずか100メートルかそこらの距離を2往復したが、見つからない。

オットが「遠いところで落としたのならまあ仕方ないと思えるが、近所ということなら家を特定されかねない。悪意のある人に拾われていたのなら、これは大問題だ」と言って、自分も懐中電灯を持って出かけた。ムスメが「あたしも行く?」と言って上着を着ようとするのを「家で待ってて」と止めて、わたしもまた出かけた。

2往復して、定食屋の中もくまなく探させてもらった。出てこない。わたしは考えた。「拾った人が、どこかにそっと置いていてくれるのではないか」

下ばっかり見て歩いていたので、今度は家々の塀の上とか、路肩のちょっとした高めの位置を見て歩いた。フェンスに引っ掛けたりしてないだろうかと見て回った。しかし、なかった。

しょんぼりして帰ると、ムスメが「やっぱりわたしも見てくる」と言って出かけた。

わたしは家で留守番しながら考えた。わたしなら、警察に届けるか?いや、届けないなー。探す人が見に来そうな、その辺に置いておくだろうな。でも、小学生が拾ったとしたら?こんな暗い夜道を小学生が歩く?いや、塾とかあるし。と、頭の中でぐるぐる考え、警察に電話してみた。

「あのー、落とし物って、電話で問い合わせても教えていただけますか?」と聞いたら、警察の窓口の人に「はい、県内でしたらこのお電話で拾得物の照会ができますよ」と言われて驚いた。「何を落とされましたか?」わたしは鍵の特徴、キーホルダーの特徴、落としたであろう場所などを口頭で伝えた。「ではしばらくお待ちください」と警察の人は言ったが、電話を保留にはしなかった。うっすらと声が聞こえる。「鍵。。そう。市内の。。ああそう。他には。。?」

そこにオットが帰ってきて、わたしの前に「ほらよ」と言って鍵を投げた。「おっと!」わたしは思わず声に出た。「おっとじゃねえ!」と言って、オットはソファに寝転がった。
警察の人に「もしもしー。もしもしー」と声をかけるが反応がなく、うっすらと聞こえる声が「はい、そうですか。わかりました。。ええ。。」と、真面目に探してくれている様子だ。

「すみません、お探ししましたが、今のところまだ届出はないようです」そりゃそうだ。ここにある。「お近くの交番にお届けになると、県内で該当する落とし物があったときにお知らせしますので」と言われ、「はい、わかりました。ありがとうございます」と返事した。ここにあるんですよと言うと、その人の仕事が無駄だったと知らせることになる。心の中で詫びながら「ありがとうございました」と言って電話を切った。

「どこにあったの?」と聞くとオットは「塀の上じゃ」。ムスメが「でもねー、ずいぶんと高いところにあったよ!」続ける。さらにオットが「想定していたエリアからちょっと離れた、しかも高いところにあったから、善意なのか悪意なのかわからん」と言った。

そこでまたわたしが「おっと」と言って、この事件は終わり。


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