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抜きに抜いた。

この夏、庭が草原になっていた。いや、薮のようだった。忙しさにかまけていたのと同時に、猛暑に怖気付いて、雑草を抜くのを諦めていた。あまりの暑さに蚊も出ないのをいいことに、放置していたのだ。車一台が停められる程度の広さだが、びっしりと草に覆い尽くされ、地面が見えない。おかげで猫の糞害にも見舞われなかったが、近所の人たちは「だらしない」「いつまで放置するつもりかしら」と思っていただろう。仕方ない。やるか。

熱中症になりませんようにと祈りつつ、わたしは草を抜き始めた。引越してきた時、真砂土に全く何も生えていない状態だったから、クローバーのタネを蒔いた。数年間はクローバーが全体を覆っていたのだが、年を追うにつれ、それ以外の草も生え始めた。どこからタネが飛んでくるのか、あるいはもともと土の中に眠っていたのか。ヨモギ、タンポポ、オオアレチノギク、カタバミ、エノコログサ、メヒシバ、オオバコ、ホトケノザ、ヒメツルソバ…。まだまだ名前のわからない草もたくさん。ずいぶん種類が増えたもんだ。さらに、2本くらいもらってきたミントを挿し木(?)しておいたら、これが大繁殖。地下茎で広がっているので、一本を抜くと地面からズルズルと長い根が現れる。数々の雑草は、根のつき方が違うから、種別に抜き方を変えなければならない。上に引っ張れば良いもの、放射状に広がった葉を全部束ねてから抜くもの、斜めに引っ張って根を緩めてから上に引くもの。無心になってそれらをバキバキと抜き続けた。抜いた草は、45リットルのゴミ袋4枚になんとか詰め込んだ。それでもまだ、抜き終わらない。

しばらくたってふと思った。「食べられるものはないか。」

素人判断で草を食べてはいけませんよ、とテレビで岡本信人さんが言っていたから、無理はしないでおこう。そう考えると、食べられるものはミントしかない。ヨモギは若葉のうちなら草団子を作ってもよかったが、もう夏の間に立派なオトナになっている。ミントも、トウが立ってしまったものが多い。新芽のところをちょこっとずつちぎってみた。

おしゃれなカフェとか、レストランでは、お菓子や料理に乗せられているが、わが家ではそんなシャレた使い道はない。しかも、うちには「なんだこのニオイは!」「くさい」と言って、嫌がる人が2人いる。この爽やかな香りの良さがわからんのか、と思うが、ダメなものはダメ。そこでわたしは、ミントを洗って密封容器にしまい、冷蔵庫に押し込んだ。

水を飲むときに、少しミントを入れてみる。ストローでガシャガシャとかき混ぜながら、香りを楽しむ。「モヒート」というカクテルが作れるかもな、と思ったが、うちにはお酒も炭酸水もない。買いに行くのも億劫だ。

今日は、ヘロヘロになるまで草を抜いて、ミント水を飲んで、昼寝して、日が暮れた。あっという間に1日が終わってしまった。学校や仕事に出かけた家族に、ちょっと悪いなと思うが「ま、こんな日もあるさ」と、夕食の支度に取りかかることにした。

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