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マンモス大学

食中毒も終盤を迎えている(と思いたい)。昨日のことだが、わたしは再検査のため、救急搬送された大学病院に向かった。地下鉄に乗ろうと、駅へ向かうと、就活スーツを着た若い女性と、着物を着た女性が並んで歩いていた。「え、この頃では、入社式にお母さんと行くの?」と思ったが、コンコースに到着したら、よくわかった。大学の入学式である。わたしたちの時は、親が来るなんて珍しかったけどなあ。

それにしても、だ。新入生全部が、就活の装い。黒の上下。みんな同じだ。なにそれ、就活に備えてるの?もう、いっそ制服にしたらいいじゃない? 何アントワネットだよ、と自分にツッコミを入れながら、ホームへと階段を降りる。いかん。これは。あふれんばかりの新入生とその保護者たち。息苦しい。当然だが、到着した地下鉄の車両も、新入生と保護者ですし詰め状態になっていた。病院に向かうわたしは、フラフラだ。ふと見ると、優先席が空いている。しかし、若者たち(男子)が団子になっていて、通れない。頼む、わたしを座らせておくれ。
「すみません、具合が悪いので、そこに座らせてください」と言うと、
「あ、はい」と道を開けてくれた。

わたしが座ったら、道を開けてくれた学生に、他の学生が尋ねる。
「なんて言われたと?」
「わからんやった」
「わからんやったと?」
「うん。ぜんぜん」

わからないのに「はい」と言ったのか。確かに、外国語でなんか言われて、状況を考えると、ああ多分、そこに座らせてって言ってるんだろうな、とわたしも思うだろう。しかし、わたしは日本語で言った。滑舌悪くてすみませんね。

みんなピカピカの靴を履いて、就活風のスーツ。そして、なぜかリュックを背負っている。その中の一人が言った。
「知っとった?今年は5万人くらい受験しとるって。受かったのが1万人」
「へー。5分の1か」
「俺、勉強についていけん気がする。俺の学部、意外に学力が高いらしい」
「ああ、人文ね」
そして、そのあとに微妙な空気が流れた。他の学生は人文学部ではないんだろう。もっとやる気出せ。そして自慢に聞こえるようなことは言うなー。友だちなくすぞ。

フラフラなのに、頭の中は結構元気だ。大学病院と大学は同じ駅なので、彼らと一緒に外へ出る。さすがマンモス大学。怒涛の人波。わたしは、その流れに押されながら改札を抜け、あれよあれよというまに、病院入口へのエスカレータにたどり着いた。背中で「入学式までまだ30分以上あるから、スタバでコーヒーでも飲もうよ」と、両親と話している男子学生の声を聞いた。

何もかも、わたしには新鮮だ。彼らが令和元年の大学生なのだ。

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