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地獄で仏

東長寺に行ってきた。JR博多駅から地下鉄で一駅。東長寺は九州における真言宗の拠点寺院で、木造の坐像としては日本一の大仏がある。知ってはいたが、一度も行ったことはなかった。
http://hakatanomiryoku.com/spot/%E5%8D%97%E5%B2%B3%E5%B1%B1%E3%80%80%E6%9D%B1%E9%95%B7%E5%AF%BA

拝観料は50円で、日本語、英語、中国語で表示してあった。見れば日本人よりも、海外からの旅行者の方が多いようだ。2階の拝観入り口では、エプロンをつけた年配の女性が、片付けを始めていた。あと15分でクローズするらしい。それならば、と勇んで足を踏み入れたら、大仏さまは、いきなり現れた。 

わー、大きい。わー、きれい〜。
木製の大仏さまは、木肌がツヤツヤと美しく、尊くそこに座っておられた。静かに手を合わせた。あっという間に参拝は終わった。

さて、大仏さまの台座の傍に回り込むと、「地獄極楽」と書かれた入口があった。真っ暗だ。入るには勇気がいる。しかし2〜3歩ほど足を進めると、うっすら明かりが見えてきて、「なんだ、大丈夫」と中へ入った。そこには地獄のレリーフが何枚も並んでいて、解説の音声が流れている。閻魔さまが罪人を裁くところや、餓鬼畜生阿鼻叫喚の絵図を見ながら進むと、立て札に「ここから先は暗闇です。手すりにつかまってお進みください」と書いてあった。すっかり気の緩んでいたわたしは「どうせすぐに外に出られる」と思った。しかし、入口の暗さとは桁違いの暗闇が待っていた。

人間は、真っ暗闇の中にいたら、平衡感覚を失うものなのか。わたしは、左右どころか、上下さえ判断しかねた。頭では平らな床板の上を歩いているとわかっているのだが、なぜかどんどん下っているような気がするし、足元がグラグラするような感覚だ。光が全くないので、見えるはずもないのに、天井が下がってきているような気さえする。左手で手すりをつかみ、右手で壁を触りながら進む。まだかまだかと焦るが、出口が見えない。すごく不安だ。これは「閉所恐怖症」や「暗闇恐怖症」なんかの人にとっては、限界を超えていると思う。

たいした距離ではないと思うのだが、その道のりはひどく長く感じられた。途中で、右手が金属の輪っかに触れた。「カチャン」と音がした。なんだろうなと思ったが、構っていられない。とにかく前に進んだ。

うっすら明かりが見えて、身も心も緊張が解けた。そこには菩薩が集う極楽の絵図がかかっており、「地獄で仏」とはこのことか、と思った。

帰宅してから調べてみたら、あの金属の輪っかに触れると極楽に行けるのだそうだ。ありがたや。




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