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大金に慣れず数える台風の朝

ムスメの部活動に保護者会がある。わたしは今月から会計をやることになった。人生初の会計。お金には縁がないし、算数、数学は弱点なので、わたしは常に会計係を避けてきた。それがどういうわけか、会計になった。人生、わからないものだ。

今日は引き継ぎを兼ねて部費の集金を担当。70人の部員が、次々に封筒を持ってくる。中身をあらため、名簿にチェックを入れ、現金を管理する。

千円札が何百枚も集まる。それを3人がかりで数えるのだかが、数えても数えても、なぜか計算が合わない。新券どうしはくっついて数えにくいし、硬貨は10枚ずつ積み上げるが、油断するとすぐに倒れてしまう。紙幣に集中して枚数を数える。銀行員のようにはいかないので、一枚ずつペラッ、ペラッ、とテーブルに置きながら数える。

そのうちお金を数えているという気がしなくなってきた。そもそもこんな大金、日頃から見たことがない。単に「人の顔が印刷された紙」を数えているような気がしてきた。この紙を持っていくと、品物やサービスと交換してもらえるのが不思議だ。この紙を人にあげるとよろこばれる。お正月には小さい袋にこの紙を折りたたんで入れて、子どもに渡す。どうしても治療してほしい病や怪我の時、この紙を束ねてブラックジャックに渡すと救けてくれる。この紙欲しさに、人を殺す人もいるらしい。あれ?この紙はなんだったっけ?

いつのまにか、ぜんぜん違う世界に意識が飛んで行った。

台風の中心からは数百キロも離れているのに、窓の外ではものすごい風が吹いていた。ビョー、ビョー、と不気味な音がしていた。この紙が全部バーっと舞い上げられて、どこかへ飛んでいくところを想像した。そして次の瞬間、この紙がお金であることを思い出してゾッとした。おっそろしい。わたしは会計だ。一枚たりとも失ってはならぬ。

どうにかこうにか帳簿をつけて、家に帰った。手を洗おうと石鹸を使ったら、泡がグレイになった。こんなに汚れていたのか、と驚いた。
お金の扱いには、まだまだ慣れそうにない。


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