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わたし以外のわたしもいるの。

自己紹介が苦手だ。たとえばワークショップなんかで、特に必要もなさそうなのに「さあ、そちらの方から順に自己紹介をしてください」と言われたりすると、内心は「もう帰る」だ。そんなわたしが、よくもまあ、「コミュニケーションスキルをアップする文章教室」なんかやれるもんだ、と自分で呆れる。(共同主宰の相方が、たいへん優秀なのですよ。ええ。)

ところが、ワークショップをやる立場になると、話はちがう。小学生を前に「じゃあ、こっち側の人から、自己紹介してね」と、平気で言う。どの口が言うか、である。ただ、わたしたちの教室では「呼ばれたい名前」で自己紹介をする決まりだ。「ぼくのことは、◯◯って呼んでください」と言えば、卒業するまでみんなからその名前で呼ばれる。「思いつかない」と悩む子には、「なんでもいいのよ。エリザベスでもいいし、ごんべえでもいいよ。戦国武将みたいな名前は?」などと、例えを言ってみる。

ある年、「ぼくのことは、ウミガメと呼んでください。」と言った子がいた。そこにいた全員が「え?ウミガメ?」と聞き返した。「はい。ぼく、ウミガメが大好きなんで」。彼の出現以来、ユニークな名前が増えた。

年度替わりに改名した例もある。「おこげ」→「げん」、「みやぞん」→「みやぞん2」、「ひめちゃん」→「まる」、「ゾーマ」→「ビーボ」など。本人が「そうしたい」ということを周りは誰も否定しない。すんなりと、「ねえねえ、みやぞん2(ツー)」と呼んでいる。

週に一度、90分間だけ、別人になってみる。もちろん、別人にならなくてもいいんだけれど、そんな経験もいいんじゃないかと思って始めたことだ。ネットやゲームの仮想空間ではなく、現実の世界で「別人」になる。そのうえで、書きたい文章を書く。わたしたちは彼らの学校での作文を読んだことがないからわからないのだが、学校や家庭ともちがう空間で、いつもとちがう自分になって書く文章は、どこか少しちがうのかもしれない。いや、そうあってほしいと思っている。

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