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バナナトースト

子どもの頃からバナナがあまり好きではなかった。

おばあちゃんが、ほらお食べ、と出してくれたバナナを食べていた時、「子どもはバナナが大好きだよね」「バナナを見せたら、飛びついてくるよね」とかなんとか、大人たちが話すのを聞きながら、こんなモソモソした食感のくせに口の中にいつまでも粘っこく残る甘さ、なんでみんなは好きなのかなと思っていた。それに大人が「好きだろう」としたり顔で出してくるバナナを「わーい」と食べるなんて、屈辱的だと思わないのか。なんだか「バナナが好き」と言うのは「わたしは幼稚です」と言っているような気がした。そのバナナに、さらにチョコレートソースをかける?あり得ない、と子ども心にうんざりした。

チョコレートパフェに乗っているバナナ。フルーツパフェに乗っているバナナ。ホットケーキの横におまけみたいに付いてくるバナナ。クレープに巻かれるバナナ。どれもチョコレートが「ホレホレ、好きでしょう?」と言わんばかりにかかっていて、その組み合わせがどれもこれも、気に入らなかった。というようなわけで、いつのまにかバナナは嗜好品だと思うようになって、「自分とは関係ない」存在になっていった。

ある日、雑誌のエッセイを読んだ。その人はこんがり焼いたトーストに、バナナを一本横たえ、それを無理やり二つ折りにして食べるのが好きだ、と書いていた。その美味しさを短い文章の中に、簡潔でありながら、実にリアリティあふれる表現をしていた。バナナが好きではないわたしも、「ちょっと試してみようかな」と思うような。

どういうわけか、バナナを1本もらった。職場にバナナを房ごともらった人がいて、1本ずつお裾分けをしてくれたのだ。わたしはバナナを持ち帰り「いざ」とトーストを焼いた。そしてかのエッセイにあるようにやってみた。おいしかった。バナナが主役ではあるものの、控えめな登場。サックリした歯ごたえの後に、噛みしめる甘さは柔らかく、トーストの香ばしさによく合う。たっぷりとした厚みを口いっぱいに頬張る満足感。すばらしかった。

義実家の朝食にはいつもトーストが出る。ある朝、わたしたちもそれをいただきながら、義姉に「バナナトースト」の話をした。義姉は目を輝かせて同意してくれた。「美味しいよね!わたしも好き!」なんだ、そんなにポピュラーな食べ方だったのか。「同級生にはちみつ屋の息子がいてね、彼が『トーストにはちみつをたっぷり塗って、バナナを乗せて、シナモンを振って挟んで食べたらめちゃくちゃうまいぞ』って言ってたの。やってみたらほんっとうにおいしかった」と義姉が言った。おお。

ということで、自宅に戻ってわたしもやってみた。ショック。はちみつの甘さがくどい。たっぷりすぎたのか?次は少し減らしてみるか。シナモンは多めがいいかな。と、思ったのは確かだが、次からはもう面倒くさくて、素バナナで食べている。だって、これだけでじゅうぶんおいしいのだから。はい。ズボラなわたくしです。

余談になるが、わたしがバナナとチョコの組み合わせが嫌いなわけが、先日わかった。それは「チョコレートソース」なるものの味だった。物語や映画では、世界有数のシェアを誇る製菓会社は「ウォンカ」だが、それくらい世界に名を馳せている会社のチョコレートソースをもらったので舐めてみた。わかった、これだ、と思った。この味が苦手だったのだ。それはカカオではなく、チョコレート風の油と砂糖の味がするのだ。このソースとバナナの組み合わせが、デパートの大食堂でも、ファミレスでも、クレープ屋でも採用されているんだろうと思った。動画サイトで、そのチョコレートソースをたっぷりのホイップクリームにたっぷりとかけて食べる人を見た。おええ。

ま、そんなわけで、今やバナナは「かわいい黄色いやつ」くらいの位置にいる。


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