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あれから

noteの連続投稿をやめてひと月半が過ぎた。

あれから特に変わったことはなく、相変わらず体調は良くないし、気持ちも沈みがちだ。それでも日常は続く。小さな「いいこと」を大事にして生きている。

高校生に「推しはいますか」と聞かれた。推し。いるけど、あなたは知らないかもね。「えー、誰ですかあ?」

「星野源」と答えた。すると、ええええええ、と声を上げて、「僕も好きなんです!」と立ち上がった。そうなの?わたしが聞くと「そうなんです!めちゃくちゃすごい音楽家だと思います!」と言って、手足をバタバタさせた。「どの曲が好きですか?僕は最初は『SUN』くらいからいいなと思ってたんですけど、遡って聞いていくと、もうめちゃくちゃいいじゃないですか。SAKEROCKもすごくいいし。『化物』もいいんですけど、『湯気』がすごく好き。カッコ良すぎてびっくりしました。いろいろと聞いていくうちに、なんだこの人、すげえ、と思っていたんですけど、『創造』が出た時、もの凄くて腰を抜かしました。次々に出す曲がどれも新しい試みを感じるし、実験的だし、たまらなくかっこいい」と熱弁をふるった。

彼は教室でピアノを弾く。弾いているうちに、いつも速くなる。そして、なんだかジャズのように編曲してしまう。あー知ってる曲だけど、なんだっけかなーと思ってしまうくらい、原曲が遠ざかっていく。唇をぎゅっと真一文字に結んで、表情は固いのに、指先が楽しくて仕方ないという感じで踊り出す。目がキラキラしていて、そのうち肩が揺れ始める。楽しい、楽しい、楽しい。全身で演奏している。

星野源について少し雑談をしたら、「詳しいですね!」と言われたので「オールナイトニッポンを聴いているからね」と胸を張った。すると、「えー、星野源ってすごいなって思うんだけど、オールナイトニッポンだけはちょっと」と声色が変わった。「試しにちょっと聴いてみたんですよー。そしたら、内容がくだらなくて。なんだ高校生みたいじゃないかーって、スマホ投げました」

高校生から「高校生みたいじゃないか」とディスられている。笑った。いやいや、あのくだらなさを笑えるから、星野源はすごいんだぞ、と思ったが、高校生にそれを伝える語彙がわたしにはなかった。「いや、くだらないだけじゃないから」としか言えなかった。

「他に好きなアーティストはいますか?」と聞かれて、いるような、いないような、という気持ちになった。ああ、この人とこうやって話ができることがありがたいな、と思う。目をキラキラさせて、「あなたの好きなものは何?」と訊いてくれる。こんなことってしばらくなかったな、と思った。自分がおばあちゃんで、孫から聞かれているような幸福な時間だった。

今日、中学生から「推しはいますか」と聞かれた。近頃の若いものは、「推しが誰か」で相手との距離を測るのか、と思った。星野源、と答えてもわからんだろうな、と思っていると、横から別の子が「アーニャですよね」と代わりに答えてくれた。そうか、そっち系を答えればいいのか。「今は、ちいかわも好き」と答えたら、「お!ちいかわ!いいっすよね。僕、くりまんじゅうが好きです!」と言った。

ああ、こうやって考えてみると、辛いことばっかりでもないな、と思えた。書いてよかった。


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