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2023年、抱負に代えて、寝坊日記。

眩しい朝の光で目が覚めた。

「あ、寝坊した」
「『さだまさし』まで観てしまったからなぁ」
「よく寝たしまぁいいか」
「とりあえず起きて、初日の出の写真だけ撮りに行こう」
コンマ1秒で、ここまでの思考が駆け巡った。

マフラーに、漫画みたいな寝癖を押し込んで、白いコートを羽織って、OLYMPUS OM10とスマホだけ持って、玄関を出た。近所の田んぼ道まで、5分ほど。

日はもう昇りきっていて、朝特有の空気の冷たさはなかった。日に照らされて、ガードレールの霜がきらきらと光っていた。

初「日の出」というが初めて日が出たときの写真だから、初日の出の写真と言っても嘘はない、と屁理屈をこねながら、ざっくざっくと霜柱を押し潰して歩いた。

毎年の撮影ポイントに到着した。筑波山のすぐそばから日が昇るので、見栄えがする。もっとも、もう日の出から1時間半ほど経っていたので、太陽は筑波山をはるかに上から見下ろしていた。

筑波山は下の方が白くかすみ、幻想的な佇まいだった。きっと山頂では雲海が見えたのではなかろうか。空は、朝焼けの見る影もなく、青々と爽やかな色だった。

カメラの設定を始める。しまった、日が昇り明るくなってしまったから、このフィルムだと明るすぎるかもしれない。入っているフィルムはISO400だった。何事もやってみるしかない。

カチカチとダイヤルを回し、絞りをF16に、シャッタースピード1/1000に設定した。ピントを無限遠に回し切る。いつかデジタル一眼のオートフォーカスで空を撮ろうとして「ピントが合わない」と頭をひねったことを思い出した。空のピントは無限大なのだ。

ギリギリ筑波山と太陽を画角に入れ、平行をとる。シャッターを切ると、カッション、と小気味いい音が響いてミラーが上がった。

その1枚だけを撮って、帰途についた。踵を返すと、普段は山肌の雪まで見える女峰山、男体山は雲に隠れていた。お、富士山は見える。

日向の霜が溶け始めていた。道端のホトケノザが、1本だけ姿勢よく立っていたので、スマホを取り出し、カメラアプリを起動すると、指先ひとつでピントが合う。シャッターボタンを数回タップする。カシャっカシャっカシャっと電子音がリズム良く鳴る。

電車の音が、包まれているように大きく響いて聞こえる。もう始発から4本目の登り電車だった。4両編成、ガッタン、ゴットン、ガタン、ゴトンと、速度を上げながら街に向かう。

床屋の看板や田んぼに佇む白鷺、空を映すカーブミラーや蓋のない側溝を眺めていたらあっという間に家に着いた。

コートを脱ぎマフラーをほどくと、おとなしくしていた寝癖がぴょこっと跳ねた。こたつにうずくまりながら、macを開いた。

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