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サッカーに愛される国


 「サッカーから実現するコミュニティデザイン」。

 そもそも卒業論文で始まったこのテーマについて、なぜインタビューをしてそれをnoteに書くことになったのか。

 それは単純に誰よりもサッカーが好きで、日本サッカーがもっと強くて、面白くて、世界で一番になることを夢見ているから。しかし、どうすればそうなるかとあっちやこっちやと考えているうちに、そんなもんじゃない、サッカーの魅力、サッカーがもつ可能性に気づいてしまった。

 現状の日本サッカーの課題やサッカーの社会的価値について考えていることをまとめておく。そして何よりもこのことは現場の最前線にいるプレーヤーにこそ考えてもらいたい話でもあることを先に言っておく。


 ーTHEMEー
 サッカーの魅力はなんと言っても現場にある。
つまり、それはスタジアムである。
そこには一種のコミュニティが生まれている。
プレーヤー、スタッフ、サポーター、スポンサー、メディア...。
彼らはサッカーを中心にして集められた“市民”である。
サッカーがコンテンツとしてのスポーツという枠を超えて
文化となり“市民”の生活に根付いたとき、
個人と個人は影響しあい、そこからは新たなチャンスが生まれる。
サッカーを、スタジアムを、考えることはコミュニティデザインであり、
市民社会の未来を創ることなのだ。

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INDEX
・サッカーは誰に対してもフェアで、インタラクティブ
・スタジアムはサッカーを見るだけの場所ではない
・サッカーが日本に文化として根付くために
・おわりに


サッカーは誰に対してもフェアで、インタラクティブ

 サッカーが市民社会に与えられる価値は、健康的な生活や組織の集団意識など多岐にわたる。共通している点は、どれも人々の生活を豊かにするものであるということだ。

 今回は、コミュニティという軸で考え、サッカーがもつ価値観の一つである「フェア」を挙げる。

 ボール1つあればどこでもできるこの単純なスポーツは、世界のいたる所をつないできた。人種も、性別も、年齢も関係なく。プレーヤーという側面だけを取ってみても、その多様性は非常に豊かだ。誰もが自由に自分を表現でき、しかし同時に自分とは全く違う他者とのセッションをやってのけなければいけない。

 例えば、ルカ・モドリッチの話が好きだ。

 「小さな巨人」と呼ばれる彼は、子供の頃ユーゴスラビア紛争に巻き込まれ難民となったバックグラウンドを持つ。祖父を殺され、実家は燃やされ、手榴弾が落ちてくるような環境の中でサッカーを続けた彼が、世界有数のトッププレーヤーとして活躍し、家族のために家を買い、国を代表して戦う。その彼が走る姿を見た誰かは、明日を生きる希望をもらったかもしれない。

 そこまで大げさじゃなくても、例えば僕は仲の良い高校の同期が大学で初めて公式戦に出場して活躍したという話を聞いただけでとても勇気づけられる。

 サッカーが「フェア」である限り、多種多様なアイデンティティが受容され、なおかつ市民が自立共生する社会の実現に貢献できるのではないかと考えてしまう。

 

スタジアムはサッカーを見るだけの場所ではない

 それでは、実際に今の日本にあるサッカースタジアムで起こっている現実の話をしよう。

 1993年に開幕したJリーグ。180試合行われた記念すべき最初のシーズンの全チーム平均観客動員数は17,976人。それに対し、306試合行われた2017年は18,883人で、それ以外のシーズンを見ても多少の起伏はあるものの、開幕当初からほぼ横ばいなのだ。最も多かったのが1994年の19,958人で、サッカーはこの国ではあくまでブームの1つに過ぎなかった。(※データは、J.League Data Siteより)

 1つの要因として、自明の理はあるが、日本にはサッカー以外に楽しいことがいっぱいある。その中でサッカーを文化として根付かせたいという話をするわけである。

 しかし、実は簡単な話で、サッカーだけじゃなくていいじゃないということなのだ。当たり前のことだが、サッカースタジアムにはサッカーを観に来ている。その当たり前を変えてしまおう。

 例えば、建設費が最も高額だったサッカースタジアムは日産スタジアムの603億円だ。しかし、実際に稼働している日数は、平成26年度でたったの76日。これはあくまで一例だが、他の主要なスタジアムもほとんど変わりはなく、収支はほとんどがマイナスで推定管理料という公共からの援助があってやっと運営できている。(※データは、スポーツ庁の資料より)

 スタジアムにサッカー以外の用事で訪れたらどうだろうか。スタジアムがショッピングモールのような機能を持っているだとか、地下が町の図書館になっていてもいい。実は、ヨーロッパでは既に複合型のスタジアム建設や運営ができていたり、再建に力を入れているところも少なくなかったりもする。

 逆を言えばこれ、サッカーが人々の生活の中に入り込むということなのだ。スタジアムは週末の非日常的体験を提供するだけではなく、日常の風景なのだ。そんな多様性をもつスタジアムこそ、まさしくサッカーのようにフェアでインタラクティブな存在と言えるのではないか。

 スタジアムからパークへ。

 そんな場所で生まれるコミュニティはもっと自由だ。ただのエンターテイメントにとどまらず、そこにはクラブのフィロソフィーがあり、それに共感した人々が集まってくる。更には、今までサッカーを観に来ていただけだった市民が、主体性を帯びて参加するようになる。それはつまり、自立共生した市民社会の実現であり、サッカーに世界を変える力があると僕が考える理由でもあるわけだ。


サッカーが日本に文化として根付くために

 つい、サッカーの夢を暑苦しく語ってしまったが、それが実現するためにはやはりサッカーが日本に文化として根付く必要がある。

 そのための1つの案として、サッカーの最大の魅力である現場、サッカースタジアムの構想を考えたわけだ。

 人々の生活の中に溶け込んだ、公園のようなサッカースタジアムを作るのに必要なことは何だろうか。もちろん行政との連携や法的制度の問題など現実的な課題はいくつもあるのだが、今回はあくまでアイデアとして大事だと考える要素を3つ挙げたい。

 1つ目は、「地域密着」であるということだ。

 これはJリーグが掲げている理念の1つでもあるが、やはり現場を大事にするのであれば、顔が見える人と人とのコミュニケーションが不可欠だ。クラブは地元の人を幸せにすることを第一に考えるべきだし、そうすれば勝ち負けのサッカーだけではなくなるはずだ。これは地域によって全く違うので、よりスタジアムも土着品質でなければならない。そういうコミュニティの色やクラブのフィロソフィーがあるからこそ、遠く離れたところにいてもそれに共感して応援したいと思えるのだ。

 2つ目は、「寛容」さをもつことだ。

 サッカーはサッカー以外に厳しい。例えば、クラブスタッフや運営といったところだけを見ても、ほとんどが“サッカー上がり”だ。もちろんそういう人たちのサッカー愛が日本サッカーを支えていることは間違いないのだが、全然関係ない人がいても良い。スタジアムにももっとサッカー以外の価値観や文化が入り込んできていい。その多様性から想定外なアイデアやチャンスは生まれてくる。それが気づけばその地域の、もっと言えば日本の独自性になり、この国のサッカースタイルを作ることにもつながるのだ。

 3つ目は、「何も作らない」ことだ。

 今まで長々と話したことを否定しているように聞こえるだろうか。サッカーだけじゃない、あれもこれも盛り込め、複合型だ多様性だと言っておいて、何も作らないとはどういう意味か。それは、余地を作るということだ。町の中に唐突に現れる武骨なスタジアムでは、それこそ寛容ではなくなってしまう。内と外とをつなぐ緩やかな境界を作らなければならない。スペースが無ければ、クリエイティブなプレーはできないだろう?


おわりに

 そういうわけで、僕は様々な人にインタビューをすることにした。現場で見ている風景を見たいからだ。しかも、インタビューをする人は多様な方がいい。サッカーはサッカー以外ともっと手を組まなければいけないから。「コミュニティデザイン」というテーマを軸に考えれば、選手、クラブスタッフ、建築家、あるいは音楽家や雑誌の編集長にだって意見をもらう必要がある。

 そして、先にも述べたが、このテーマは“内側”にいるサッカー関係者、特に最前線でサッカーに携わっているプレーヤーにこそ考えてもらいたいことなのだ。僕たちがそのことに気づいて、動かなければ何も変わらない。僕たち自身がもっとサッカーの可能性を信じる必要があるし、そのために、明日の試合に僕たちは勝たなければいけないということに気づくべきだ。

 こんなにもサッカーを愛している人で溢れている国、日本。

 そろそろサッカーに愛されてもいいんじゃないか。





SOURCES

・広瀬一郎著(2017)、『サッカービジネスの基礎知識 「Jリーグ」の経営戦略とマネジメント』、東邦出版 


・井口典夫・中村伊知哉・芹沢高志・玉置泰紀・小林洋志・保井美樹・松岡一久著(2017)、『ポスト2020の都市づくり』、学芸出版社


・『J League Data Site

・『スポーツ庁 資料


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