卒論インタビュー 【#1 天野春果】

「サッカーから実現するコミュニティデザイン」をテーマに、
サッカーがもつ可能性を探る。
更に、インタビューを通じて、サッカーの枠を超えて僕たちのこれからについて考えていきたい。

 

 第1回目は、元川崎フロンターレプロモーション部部長で、現在は2020年東京オリンピック・パラリンピック組織委員会に出向されている天野春果さんに話を伺った。

 組織委員会本部に特別に入れてもらうと、スポンサーである企業の名前が壁に並んでいる。壁は白のシンプルなものだが、記念すべきこの場所を勝ち取ったそのロゴの列は、もはや東京で最も値の高い芸術作品。会議室には過去の開催地の名前がつけられている。受付の女性に案内されると、天野さんの後を追ってシドニーへと向かう。


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天野 春果(あまの はるか)

 元川崎フロンターレプロモーション事業部部長で、現在は東京オリンピック・パラリンピック組織委員会でエンゲージメント企画担当部長を務めている。地域プロスポーツの推進を掲げ、様々な企画でスポーツと人々の生活をつなげてきた。
 著書に「スタジアムの宙にしあわせの歌が響く街: スポーツでこの国を変えるために」、「僕がバナナを売って算数ドリルをつくるワケ: スポーツでこの国を変えるために」がある。

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目次
・スポーツの役割は、地域の人たちを幸せにすること。
・日本にまだないスタンダード
・第一人者になれ。
・サッカー選手に残された選択肢
・スタジアムはお父さんに引っ張られて来る場所じゃない。
・まとめ



スポーツの役割は、地域の人たちを幸せにすること。

篠原力(以下、力):卒論で日本のサッカー文化について書いています。元から海外のサッカー文化に興味があって、来年はスペインに行こうとも思ってるんです。

天野春果さん(以下、天):俺も高校卒業してアメリカに行ったんだけど、やっぱね、外での価値観を知るってことは絶対必要だと思う。まず、日本のスポーツについて話すと、日本ではスポーツの発展が教育的に良い部分として体育みたいな形で使われたってことと、企業スポーツからスタートしたってところがあって、ここには地域の人たちを意識するっていう視点がないんだよね。組織の一致団結とか士気高揚だったり、企業名を背負ったチームが活躍することで外に知ってもらうといった広告宣伝に使われてきた。これってスポーツが持つ「効果」の一部分に過ぎなくて、本来一番大事なのは地域の人たちを幸せにすることなんだよ。

プロって言うと、野球が最初だよね。今でこそだいぶ変わってきたけど、最初は企業名が前に出て全国展開していくって感じで地域に根ざすっていう考え方はなかった。ようやく1993年にサッカーのJリーグができて、川淵さんらが色々反対はあったけど企業名を外して「地域密着」、「地域貢献」を掲げた。でも、海外だとそんな言葉はないわけよ、元々そういうものだから。

川崎フロンターレは前身が「富士通川崎フットボールクラブ」という企業チームで、1997年にJリーグ入りを目指してプロ化されたんだけど、最初はそんな考え方なんて全然なかった。俺はちょうど川崎フロンターレに名称が変わったこの時に入社したんだけど、とにかく最初のころはスタッフとぶつかりまくってた笑。大学時代をアメリカで過ごし、スポーツと地域の関係を体感していたから、スポーツはこういうもんじゃねえな、こうやるべきだなっていうのがあって仕掛けてきたんだけど、まだまだ日本ではそれをカタチにできる考えと環境がデコボコで整ってなかった。俺がやってることも俺からすると普通の感覚なんだけど、追随する人がいないから突飛に見えちゃう。日本のスポーツ文化にそういうものがないから珍しがられちゃう。


日本にまだないスタンダード

力:それが当たり前になるっていうことが一つの目標というか、課題ですよね。

天:そうそう。そのためには結局口だけじゃだめで、成果を伴わなきゃいけないんだよ。じゃあ結果って何かって言うと、スタジアムに地域の人が集い、客席が埋まること。これが地域からクラブが求められている証であり、需要だから。

やっぱり自分たちの街を背負っている仲間を応援したいって思ってもらう。だからスタジアムの収容率がすごく大事で、常時9割埋まるクラブを創ることが目標。これを毎試合できるようになること。あとはシーズンチケットが5年待ちくらい。今、日本には存在しないわけよそんなクラブ。まずはそういう前例を作っていかないと、スポーツの力で地域を幸せにしているとは証明できない。

今はだいぶフロンターレの思考や施策が注目されてきたけど、昔なんか俺のやってることは、ふざけてる、おちゃらけてる、サッカーの本業を馬鹿にしてるなんて言われてさ。エンターテインメントとかアミューズメントパークに近いってことをマイナスの意味で言われたね。

力:それはどこから言われるんですか?

天:サッカー観戦を主としてるクラブとかサポーターだよね。俺は全然気にならなかったけど。

地域プロスポーツってさ、強いという要素だけでお客さんが入り続けるわけじゃないんだよ。「強さ」という要素に特化してクラブ運営をしていくと、強化した結果が力を発揮できなくなった時に、集客できなくなってくる。あるいは勝ち続けていても、人間ってのは勝手な生き物で、それはそれで刺激がなくなって集客に「強さ」が絶対ではなくなってくる。例えば、鹿島アントラーズが3連覇したり、19冠を成し遂げたからといっていつもスタジアムが満杯ってわけではないでしょ。去年、浦和レッズはACL(アジアチャンピオンズリーグ)タイトルを獲ったけど、今年のリーグ戦スタジアム収容率は約5割。横浜F・マリノスも歴史と伝統があって、数々のタイトルを獲っているクラブだけれど、現在のスタジアム収容率は3割くらい。今ではフロンターレの平均入場者数と変わらなくなってきている。実際は、勝つこと、強さっていうのは、地域プロスポーツ発展にとって、最大の手段ではあるんだけど、全てではないってことを理解しなければいけないんだよ。

でも、そこを経営・運営で具現化してアクションプランを打っていくってことができているクラブはまだまだ少ない。特に重要なのが、「何のために自分が存在するのか」を選手たちに理解させること。選手はもちろん「勝つために」日々練習しているので、「勝利」することだけが目的になりがちなんだけど、そこはそれだけじゃないんだよと、活動を通じて選手に体感させることが大事なんだよね。地域プロスポーツ選手の存在意義は「地域を豊かにすること」であり、そのためにはピッチ上で「勝利」という最大の手段で地域の人たちの笑顔を生み出せるよう全力で頑張り、オフザピッチでも一般人よりも発信力・影響力があるパワーを活かして地域や社会が豊かになるよう活動すること。クラブは決して選手を「サッカーマシーン」にしてはいけない。でも、現実はこれをできているクラブは少ないし、これはJリーグだけではなく、他の国内プロスポーツチームにも言えること。日本スポーツ界の大きな問題だよね。

りきがスペインに行くなら、日本と海外事情の違いは絶対刺激になるし、日本と違って他国とは地続きだから色々な国の地域プロスポーツも容易に見に行ける。なおかつ日本ではバルサとかレアルのことしか放送しないから情報がないけど、現地に行けば5部とか6部とかの「競技力に頼れないクラブが何で勝負しているか」を見て感じることが大事。そこにある文化を体感して、日本に合うように応用していくってことが必要だと思う。


第一人者になれ。

力:外からの価値観っていうのは海外に限らず、サッカーとサッカー以外とも言えますよね。サッカーにはそういったところへの寛容さが足りないなというふうに思います。天野さんみたいに、スタジアムにお相撲さんを呼ぶなんて発想は外へ目が向いていないと出てこないですよね。(※2008年に、当時の川崎市内にあった春日山部屋とコラボして、スタジアム横でちゃんこ鍋を振る舞う等の企画を行った。)

天:そうなんだよ。だから結局、サッカークラブ、サッカーの興行って考えちゃうと、同じ地域にあっても他のスポーツなんかどうでもいいし、企画もサッカーっていうキーワードしか出てこない。でも実はさ、サッカーがポイントっていうよりは、どこの地域でやってるかっていうのが大事なんだよ。フロンターレじゃなくて川崎なんだよ。俺はやっぱりそこは一番意識してた。

川崎にはサッカー以外にも相撲部屋があって川崎を背負った力士が取り組みをしているって知れば、今まで見ていなかった大相撲も「川崎」という地域をキーワードに興味関心が沸く。興味関心が沸けば大相撲を見るっていう新たな趣味が生まれる。今まで触れたことがない世界を知ることは生活が豊かになることにつながる。こんな面白い場所があるんだとか、こんな美味しいものが同じ街にあるんだ、とかね。気づきが生まれれば、生活は豊かになるじゃん。クラブが持つ発信力を活用して色んなものをつなげてあげるんだよ。

そういう取り組みっていうのが本当は大事なんだけど、手間がかかって直接的に入場者に返ってこないから多くのクラブはやらないんだよ。でも実際は、地域の人たちのためにつなげて、それを広めて、ネットワークができる。相撲ファンだった人がサッカー観に来るようになったり、美味しい特産物を作ってる業者さんが来てくれるようになったりする。時間はかかるんだけど、それが地域の人たちを幸せにして、なおかつその“ハブ”の役割を果たすクラブの集客につながるんだけどね。

力:そこをはじめにやる人っていうのは、壁っていうか、なかなか理解してもらえないところはありますよね。

天:あるある。あるんだけど、初めてのことやらなかったら面白くねえじゃん!日本のスポーツ界ですごくいいのは、初めてのことだらけなんだよ。特に地域プロスポーツにおける事業っていうのは日本は道がデコボコでさ、これからやることはやるだけ第一人者になれちゃう。

地域プロスポーツの中でもサッカーっていうのは一番難しい。理由は、試合数が少なくて昇格降格があるから。バスケとか野球と比べると1試合の重みがでかいんだよ。それからサッカーはヨーロッパのスポーツでさ、ヨーロッパの歴史っていうのは代理戦争だから。争うことが目的。そういうスタイルが入ってきて、応援もブーイングとか発煙筒投げるとかっていうのが出てきちゃう。そういうのが良しとされちゃってるわけよ。

じゃあ、バスケとか野球はどうかって言うと、アメリカのエンターテインメントスポーツでしょ。試合数は多いし、サッカーと違ってイニングやタイムアウトなどエンタメを入れ込める時間、見せ場が作りやすい。バスケに関しては、キャパが小さいから臨場感、猥雑感を生み出しやすいし、屋内だから天候にも左右されない。サッカーと比べれば、もううまくいかない要素なんて思いつかない。唯一サッカーにあって野球、バスケにないのは「ワールドワイド」なスポーツではないってことくらいじゃん。サッカーはワールドカップとオリンピックの2大世界大会での「サッカー日本代表」の活躍が国内リーグ繁栄にも寄与してるけどね。まあそれをさっぴいてもバスケは絶対うまくいく。フロンターレ在籍時に色んな企画をカタチにしたけど、Bリーグだったら俺、無限に面白い企画を出せる自信ある笑。でも、そんな好状況でさえもみんな苦労してるよね。それだけ人材不足なのよ、スポーツ界は。だから必要なんだよ前例を作る第一人者が。


サッカー選手に残された選択肢

力:サッカー選手でそういうところに目を向ける人はやっぱり少ないと思います。ただ海外に行くってだけじゃなくて、サッカー選手としてプレーしながらそういうことを発信していきたいなって考えています。

天:それはすごく大事だと思うな。俺ら事業の人間はできないけど、選手は事業の人間にもなれるし両方の経験をできるんだよ。今までフロンターレで300人くらいのJリーガーを見てきたけど、事業の重要性を理解して興味を持つ選手っていうのは極端に少ない。哲っさん(中西哲生)とかさ、今思いつくのでも4,5人だね。

ここも海外と大きく違うところじゃないかな。日本では選手をリタイヤしたあとに大体がサッカースクールのコーチを目指す。うまくいけばクラブに残れて、上のカテゴリーで監督になるってこともある。指導者になるっていうのも素晴らしい道なんだけど、あまりにも選手の選択肢がそっちにしかない。海外では、1流アスリートが1流ビジネスマンになるっていう構図があって、日本ではそういう教育ができてないよね。問題だと思うんだよね、これ。だから俺はそういうところも変えていきたい。でもそれって一人だけではできなくて、GMも、スカウトも、コーチとかも強化部と言われるメンバーが同じ感覚を持ってなきゃいけない。「天野、なんでサッカークラブなのに関係ねえことばっかやらせんだ」ってなっちゃうからね。だからこそ、まずは俺自身がもっと色々な経験を積み、人的ネットワークを広げて、今後考えていることをしっかりカタチにできるようにならないといけない。今こうやって東京2020組織委員会に来ているのも、それを意識してのこと。


スタジアムはお父さんに引っ張られて来る場所じゃない。

力:人材っていうところに目を向けると、地域の人だったりスタジアムに来る人が参加して一緒に創っていくっていう感覚が必要なのかなと思います。

天:スタジアムにサッカーしかないと、サッカーマニアしか来なくなっちゃう。大事なのは、スタジアムが多くの人にとって「行きたい場所」「集う場所」にならなければいけない。多くの人っていうのは年齢性別問わずで、そのためにはどうすればいいんだろうって考える。試合は始まるまでわからないし、勝っても1−0でつまんない試合だったってなったら、お父さんに連れてこられた奥さんとか子供はもう行きたくないってなっちゃうじゃん。サッカー以外でスタジアムに行く動機づくりをするってなると、ハーフタイムの15分でスタジアムの中で仕掛けるのは難しい。ならば今度はスタジアムの外、試合前後だってなるわけよ。しかもそれが地域性に溢れてて、自分たちの街のことが知れて、もっと好きになるって仕掛けができれば、みんな行きたくなる。お父さんがわざわざ引っ張って行かなくても、スタジアムに行こうよって。

それにどんな理由にしろスタジアムに足を運んで試合を見てるとさ、最初は応援歌も選手名も分からなくても、徐々に歌覚えて、口ずさめるようになって、いつの間にか家帰ってから鼻歌歌うようになるでしょ。特に女性は、お気に入りの「推しメン」選手なんかができれば、最初に連れて行った旦那さんや彼氏よりものめり込んで応援するようにもなるしね。その選手と触れたり話せたりなんかしたら、お母さんキュンキュンだよね。次にはその選手のユニフォーム買っちゃうわけだよ笑。

スタジアムに多くの人に来てもらう、サッカーだけじゃだめ。スタジアムの中の雰囲気を作ってるのは、結局スタッフじゃなくてサポーターだからね。サポーターはお客さんでありながら演出家でもあるわけだよね。オリジナルソングを作ってくれてるわけだから。それをみんなで歌いましょうよって指揮執ってるのは、俺らじゃなくてサポーター。ってことは、サポーターとコミュニケーションを取らなければ、自分が考えているスタジアムの雰囲気って作れないわけだよ。

力:川崎フロンターレではサポーター会議もやってますよね。

天:やってるやってる。月に1回程度、人数は30人位で。会議っぽくなく、お菓子広げてみんなで食べながらね。その中でも企画を具体的に詰めて話さなきゃいけない時は、事務所近くのバーミヤンで自由な発想言って、俺こういうの考えてんだけどさー、いやー天野さんこういう要素入れたほうが良いっすよーなんて話になる。川崎フロンターレではスタジアムの仕掛け・演出を事細かに秒単位で決めてて、このコールが入ったらオーロラビジョンでこれを流すとか、勝ち負けのパターン考えたりとか。スタジアムの雰囲気づくりをどうするかって話し合ってるんだよ、偶然じゃないんだよあれは。

もちろん意見がぶつかり合うこともあるんだけど、そこはお互いが、どうやったらもっとスタジアムを幸せな空間にできるか、クラブが市民やサポーターを幸せにできるかを真剣に考えてるかの結果であって、底には信頼関係があるから問題ない。その代りしっかりやってないとバッシングだよ。サポーターに活動押し付けて自分は帰っちゃうとか。俺は絶対そういうことはやらない。そこが信頼関係。サポーターはクラブの思考に賛同して共にしてくれる同志なのだから、サポーターよりももちろん汗かかなきゃいけないし、闘えなかったら彼らを巻き込んではいけないと思ってる。俺は責任の向こう側に本当の仲間がいると思っているから、サポーターとの関係の中にも、プロ事業スタッフとしてしっかり自分の責任を果たしたい。でもそうしていると「天野さんたちヒーヒー言いながら頑張ってるから、俺たちも一緒にやろうぜ」みたいにサポーターも動いてくれるんだよね。


まとめ

 天野さんのお話を聞いて、サッカーが人々の生活を豊かにしていく仕組みが分かった。やはりサッカーの魅力はスタジアムにあり、まだ日本では実現していないが、地域に愛されるクラブを作りスタジアムを満杯にするというニュースタンダードを作らなければならない。2018−19年シーズンにおいて川崎フロンターレは、既にホームゲーム11回中8回もチケットを完売させている。(8/24現在) 天野さんにとってこの状況は必然だったのか。

 天野さんはインタビュー中、しきりに”感覚”という言葉を使っていた。海外のスポーツ文化を肌で感じ、体感することの大事さ、サポーターと共に作ってきたスタジアムの空気、いつでも天野さんはその中にいた。サッカーがサッカー以外とつながっていくこと、そこに勝ち負けだけではない価値があることを教わった。そうしてサッカーは、スポーツは地域の人々を幸せにしていく。そのために彼は勝っていかなければいけない、彼の目がそう語っていた。



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スペイン1部でプロサッカー選手になることを目指してます。 応援してくださいって言うのはダサいので、文章気に入ってくれたらスキか拡散お願いします! それ以外にも、仕事の話でも遊びの話でもお待ちしてます!

人間
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篠原 力(SHINOHARA RIKI)

バレンシアでサッカー選手やってます。遊びに付き合ってください。

サッカーから実現するコミュニティデザイン

卒業論文で、「サッカーから実現するコミュニティデザイン」をテーマに、スタジアムにいかにして人が集まり、サッカーが人々の生活に影響を与えていくかを研究中。
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