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懐かしき未来


 新幹線で東京から大阪までを行くような、移動に時間がある時に備えて、自分で選曲してプレイリストを作るのは楽しい。その時、その場の気分だから、もう二度と聴かないようなのを組んでしまうこともあるが、それはそれで旅の思い出、記憶だ。

 今では当たり前のように携帯電話の中で音楽を聴いている。しかも便利なもんだから、好きな曲だけを引っ張り出しては集めて、飽きれば次の曲に行く。

 かつて、父親の運転する車で音楽を聴いていた時代にはそうはいかなかった。

 音楽を聴くときはアルバムを通して1曲目から順番に聴かなければいけない。しかし、僕はいつもレッチリのBy the wayが聴きたいから何度も繰り返しCDを巻き戻す。

 赤のシボレーに乗る父がヘビースモーカーだった頃、僕は1曲目依存症だったから、お気に入りのCDはその場所だけすり減ってまるで汚れた肺だった。

 あの頃の曲を聴けば、あの頃の風景が蘇ってくる。きっと音楽が歩き始めた頃から、誰の人生にも音楽がついてまわっているのだろう。

 サッカー小僧だった僕は、ただ毎日ボールを蹴ってサッカー選手になることだけを夢見ていた。今とあまり変わらないか。

 

 とにかく、未来はもっと単純なものだった。

 アルバムが1曲目から2曲目に移るように、テーマがあって、流れに沿って、未来はやってきた。遅かれ早かれ。

 かつての未来はここにあり、憧れていた自分との距離を測ってはちょっとがっかりしたりもする。

 しかし、今ほど未来が脅かされたことはない。

 誰もが未来の話をしている。それはより複雑で、可能性に富み、選択肢は無限で、しかも僕たちはそのスピードに追いつけない。いよいよ、未来は分からなくなってしまった。

 点があまりにも多いから、それを線で結ぶことが難しくなってしまった。秩序は崩れ去った。

 ある意味、少なくとも僕にとっては好都合なのかもしれない。いつも誰かの期待を裏切り、自分でも分からなくなるほどに人生をかき回したいと思っていた。

 実際、僕たちの世界は、未来は、かき回され混沌に満ち溢れたものになった。一応の断りを入れておくと、これは僕の仕業ではない。

 それでも今、僕にあるのは不安や焦りなんかではなく、妙に落ち着いてもいる。


 そう、一度時間を止めて冷静に見極める必要がある。何となく物事が上手く働いていないと思ったら、壊して、バラバラに分解して、並べて、よく観察して、組み立て直す必要がある。

 何が大事なピースかなんてとても分かりっこないだろうから、いつか見ていたもの、今ここにあるもの、見過ごされて良い事などひとつもない。

 あまりに毎日が速すぎていつも何かに気を取られているから、僕たちは多くのことを見過ごしている。忘れている。

 かつての古き良き未来が戻ってくることはない。未来はカオスで、一体何から手をつけたらいいのか見当もつかないだろう。しかし、僕たちはそこから目を背けてはいけない。

 カオス(混沌)は、未だ解読されていない秩序かもしれない。

 いつも流れに従ってフォローしてばかりでは、見逃してしまうかもしれない。きっとどこかで気づいているはずだ。

 それともきっかけが欲しかったのか?

 自分の人生に隕石みたいに飛んできた事故のような、突然のクラッシュが流れを止める。すると、周りに何があるか見えてくるわけだ。

 例えば、次の曲へ移るのを無理矢理に止めて、繰り返し1曲目を聴くようなこと。

 すり減って傷だらけになるまで何度も。

 そしてそんな瞬間を、一生忘れないでいることだ。

スペイン1部でプロサッカー選手になることを目指してます。 応援してくださいって言うのはダサいので、文章気に入ってくれたらスキか拡散お願いします! それ以外にも、仕事の話でも遊びの話でもお待ちしてます!