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韓国のSF作家チョン・ソヨンさんの短篇を英訳で読んだ

 韓国のSF作家チョン・ソヨンさん(정소연, 1983-)の作品を2篇、英訳で読みました。
 ひとつは宇宙に行くのが長らくの夢だった女性が、実現間際に悲劇的な事件に阻まれながらもなお夢を追求する「宇宙碁」です。主人公が正攻法ではなく迂遠に目的を達成するのと、宇宙を夢見る話であるのを武宮正樹棋士の棋風「宇宙流」にかけた題名だそうです。(英訳:キンバリー・チュン)
 これは今年刊行された韓国SFのアンソロジーに収録されていました。なお版元サイトで見るより、実物の表紙のほうがキラキラしていて更にゴージャスです。
 もう一篇の「開花」は家族の話、ルポルタージュ、ディストピア小説が合わさったような物語で、投獄された姉がはたして何を成し遂げようとしていたかを妹視点から語るものです。はたして姉の企ては、検閲のないアンダーグラウンドなインターネットを、ある非現実的な手段で構築するというものでした。(英訳:パク・ジヒュン&ゴード・セラー)クラークス・ワールド誌で無料で読めます

 2篇とも女性主人公の日常生活と、彼女たちが直面する苦難が克明に描かれています。サンリオSF文庫で読めたような、1960年代の女性SF作家たちを思い出させますが、実際そのあたりに影響を受けているそうです。著者がナンシー・クレスの「ベガーズ・イン・スペイン」に感銘を受けたというのもわかります。詳細はインタビューでご覧ください。(英語)
http://clarkesworldmagazine.com/another_word_06_19/

 チョン・ソヨンさんは作家だけでなく、ご本業は弁護士で、翻訳者、作家団体「韓国SF作家連帯(SFWUK)」の設立者かつ初代会長、さらに発展途上国の児童の教育を支援するNPO団体の事務局長として、多岐にわたる活躍を続けています。不屈の努力を心より尊敬します。
 2017年には来日し、都内の韓国専門ブックカフェ・チェッコリでイベントに登壇されてもいます。私自身は残念ながら参加できなかったのですが、チェッコリさんのFacebookに充実したレポートがあるので、ぜひご覧ください。
https://facebook.com/chekccori/posts/2036541416582454

 最後に朗報です。チョン・ソヨンさんの短編集は集英社から12月に刊行される予定だそうです。『となりのヨンヒさん(仮)』(吉川凪・訳)
 近刊のソースは以下の「隠し玉」PDFです。http://honyakumystery.jp/11128
 表題作はありふれた韓国人女性の名前で通称されている政府の監視下に置かれた異星人とアーティストの短い交流を書いた話だそうで、特に楽しみです。

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