日本だけの健康指標「体力」とは何か?ー医療不信の来た道⑤

「体力」という言葉は、誰がいつ作ったものかご存知ですか?
この記事は「専門家が『専門家になるとき」の続きとしても読めますが、独立した記事としても読めます。今回は、反医療の源泉を日本の近代史から読み解きます。

国際基督教大学教授で牧師の森本あんり氏によれば、反知性主義とは知性や知的な思考を否定することではなく、知性と権力との結びつきへの反感を指す。

カギカッコつき「専門家」をオピニオンリーダーとして拡散する反標準医療や代替医療推奨の根底にあるのも、エビデンスに基づいた合理的な治療を勧める医者や、公衆衛生学的観点から見た合理的な政策を進めようとする厚生労働省など「医療エスタブリッシュメント」への強い反感だ。

「標準医療」とは、病院等の一般的な医療施設で行われている医療のことである。「代替医療」とは、経験に基づく、特定の商品や健康法による治療のことで、厳密な意味での因果関係の証明は必要とされない。

反知性主義は、「不安や怒りに寄り添うことはすべて善である」とするポピュリズムや、自己決定権と自由意志を尊重するリベラリズムとも親和性が高い。

ここ数年、反ワクチン運動と接種率低下にともない、麻疹が世界的に流行している。その対策として、2017年5月、イタリア政府は10種類のワクチンの接種を公立学校入学のための義務とし、子どもが接種を受けていない場合は保護者に罰金を課す法案を通過させた。ところが、2018年3月の総選挙では、ポピュリスト政党の「五つ星運動」がワクチン接種義務の廃止を公約に掲げて当選すると、8月には逆にワクチンの接種義務そのものを廃止している。

イタリアにおける反標準医療はワクチンにとどまらず、「ホメオパシー」への回帰も見られる。2016年のある報告によれば、高学歴の女性を中心に人口の16%が1年に1度はホメオパシーを利用しているという。

ホメオパシーとは、鉱物や薬草を原成分が一分子も検出できないほど希釈した砂糖球「レメディ」を医薬品の代わりに用いる、ドイツ発祥の代替医療で、ワクチンをはじめとする標準医療を否定する。プラセボ(偽薬)以上の効果はないが、日本でも2009年、ホメオパシーに心酔する助産師が、新生児に与えるべきビタミンK2シロップを与えず、代わりにレメディしか与えなかったことで死亡させる事件が起き、日本学術会議などが注意勧告を出した。

五つ星運動および同盟には、麻疹にかかった子どもと一緒に遊ばせて免疫を獲得させる「麻疹パーティ」を推奨する議員や、「ワクチンは自閉症を引き起こし、国家によるワクチン接種義務化は大量虐殺である」などと発言する幹部もいる。また、同盟の党首は「ワクチンは無意味で危険」などと発言している。

しかしながら注目すべきは、元フリーターの31歳、五つ星運動のディマイオ副党首が、ワクチン接種義務廃止は、ワクチンの接種を制限ですることではなく、「保護者自らが接種するしないを決定できるようにすること」だと主張としている点だろう。

尊重すべきは科学の否定ではなく、自由意志であると。

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村中璃子 Riko Muranaka

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