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リベラルだってワクチンを打っていい

「いい聞き手だな」と感じた人がこれまでに2人いる。ひとりは昨年亡くなったジャーナリストの竹田圭吾さん。もうひとりはドイツ語翻訳者の池田香代子さんだ。

キャラの異なる2人に共通しているのは勉強していること。そして、話し手から引き出したいコメントを想定し、的確な間合いと順序で適切な質問ができることだ。聞き手と話し手の関係は、サッカーのアシストとシュートの関係に似ている。

「池田香代子の世界を変える100人の働き人」に13人目の働き人として出演した。池田香代子さんと言えば、この番組を提供する「デモクラシータイムス」の同人でリベラルの最先鋭として知られている。

【子宮頸がんワクチン再考の時 村中璃子さん 池田香代子の世界を変える100人の働き人 13人目】

はじめて池田さんから連絡があった時、内心「やった!」と思った。

というのも、私の書いた子宮頸がんワクチン問題の記事はこれまで『ウェッジ』や『新潮45』など一般には「右翼」とくくられる媒体しか掲載せず、好意的なニュースを書いてくれるのも産経新聞や読売新聞など右がかっていると言われる新聞だった。そのため、「子宮頸がんワクチンは危なくない」という主張が、一般読者に右翼のプロパガンダであるかのような印象さえ与えつつあり、少し厄介だなぁと思っていたからだ。

池田さんからのメールはイカしていた。
「私の周りは10人いたら10人がワクチンなんて絶対に打たないと言う人ばかりです。でも、“3人目の池田”は味方です!」

香代子さん以外の「2人の池田」の1人は、反子宮頸がんワクチン運動団体の親玉である市議会議員だ。もう1人は、厚労省が指定した子宮頸がんワクチンの副反応研究班の主任研究者で国立大の元医学部長で元副学長という人物。昨年3月、薬害が立証されたかのようなマウス実験を発表したが、私がその実験を捏造と記事で書いたことに対し、名誉棄損で私を訴えている。

先月、私は科学誌「ネイチャー」などの主催するジョン・マドックス賞を受賞した。その時、受賞スピーチ「10万個の子宮」で彼の名に触れたこともあり、元教授の名は「ドクター・アイケダ」として海外のメディアにも広がった。

「なぜアイケダはこの実験をしたのか?」「アイケダは処分されたのか?」「アイケダは誰に頼まれてこんな実験をしたのか」「アイケダがテレビでわざわざ発表した理由は?」――。

そんなこと、私に聞かれたって「アイケダさんに聞いてください」としか言いようがない。海外の人たちは「Ikeda(イケダ)」の頭文字「I(アイ)」を「keda(ケダ)」と離して読む。

それにしても「10人いたら10人がワクチンは絶対ダメ」という、池田さんのお友達というのはどういう方たちだろう。

一般に政治的リベラルは、近代や科学技術全般に懐疑的だ。標準医療やワクチンなどと聞くだけで拒否反応を示す「オーガニックでデトックスでゼロベクレル」な人たちだ。一方、困っている人を見れば、無条件に手を差し伸べようとする優しい人たちでもある。また、政府や製薬企業、国際機関など巨大な権力や権威、金のあるものに対して怒れる人たちでもある。

かくいう私も、オーガニックやデトックスは嫌いじゃない。
ベクレルもゼロに近い方がいい。
政府や製薬企業、国際機関などにイライラしてもいる。

しかし、ワクチンは、公衆衛生の要であり、科学技術の結晶だ。リベラルも保守もない、多くの人の命と健康のかかった科学的に判断されるべき問題である。たとえ困っている人たちのためという思いからであっても、サイエンスで考える前にイズムや政治思想で否定し、「子宮頸がんワクチンは悪だ」というドグマを広め、強要するのはおかしい。ワクチンが本当は危なくなかったら、ワクチンで救えたはずの命はどうなるか。「子宮頸がんワクチンのせいだ」と訴えている子どもたちの背景にある真の苦しみはなにか、がんになるという未来の苦しみはどうかといった 想像力は欠如していないだろうか。

厚労省が専門家を集めて作った副反応検討部会も、子宮頸がんワクチンのせいだとされる症状は、ワクチンとは関係のない、ワクチン導入前から思春期の子どもに見られた身体表現性の症状だろうという評価を下している。子宮頸がんワクチンは世界130カ国以上で使用され、世界保健機構(WHO)をはじめとする世界中の保健当局が効果と安全性を認めている。

池田香代子さんの周囲とは少し違って、私の周りにはリベラルな科学者が多い。困っている人には手を差しのべ、国民ひいては人類の安全のために合理的にものを考える人たちである。池田さんは科学者ではないかもしれないが、科学の問題はリベラルに科学で考えようとする人だ。そして、困っている人には絶対に手を差し伸べなければと考える筋金入りのリベラルでもある。 

だからこそ「10人いたら10人がワクチンなんて打たない」という友人に囲まれながらも私を番組に呼んでくれたのだろう。

私も池田さんも「子宮頸がんワクチンのせいだ」と苦しむ女の子と「子宮頸がんワクチンは危なくない」と知らなかったために将来がんに苦しむことになるかもしれない女の子たちのため、真剣にこの番組で語り合った。

ネットの反応も注意して見ていてほしい。
番組を見てまた大騒ぎするのは、大人たちだろう。女の子の周りで「ワクチンを憎め」という呪文を唱え続ける運動家や親、医者や弁護士などだ。池田さんには、リベラルな仲間から批判の声も集まっているという。それもみんな大人だ。

私は番組の中で、「ワクチンのせいだ」という呪縛から女の子たちを解き放つための情報をできる限りやさしい言葉で話したつもりだ。しかし見返してみると、かえって揚げ足をとられそうな表現になっているところもあった。けれども、池田さんと相談して、そのまま放送してもらうことに決めた。女の子たちに届けたい情報はひとつもカットしたくないからだ。激しい攻撃が寄せられることがあっても、私と池田さんの思いはきっと黙っている女の子たちに届くはずだ。

photo by jacob owen

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