風車の家 | #シロクマ文芸部
『風車の家』と呼ばれている家がある。
その家には五歳になる少女が家族と住んでいた。折り紙で作った風車が大好きで、それにふーっと息を吹きかけてくるくる回ると、ケラケラとよく笑い喜ぶ姿を近所の人々はよく見かけていた。
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まだ夜は肌寒い春のある朝、少女は忽然と姿を消した。
「おやすみなさい」
前日の夜九時頃、いつものように布団に入ったのを最後に、家族がその姿を見ることはなかった。布団は乱れなく整えられていたという。
誰かが侵入した形跡もなかった。
家族は警察へ捜索願いを出し、ビラを街で配り、失踪した少女を探し続けたがその甲斐もなく見つかることはなかった。
風車が好きだった少女が、家がわからなくならないように、玄関先や道に面した庭にはたくさんの風車を土に挿し、門にはくくりつけた。
しかし少女は帰らなかった。
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年月が過ぎ、少女の祖父母が亡くなり、両親も亡くなった後は空き家となり、さらに年月が過ぎると綺麗だった家は朽ちていき、今では持ち主がいない家として地域でも問題となっている。
たくさんの風車はプラスチック製で劣化は激しいが、まだ風を受けくるくる回るものも残っている。きゅるきゅる鳴く風車を不気味に思い、せめて風車だけでも外してほしいという者もいるが、あくまで他人所有の敷地であるため、それも叶わない。
そんなある日、近所の五歳の少女が失踪した。
その少女が最後に目撃されたのが、風車の家の前だったことから、風車の家の少女の祟りではないか、神隠しではないかと噂されている。
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春の陽差しが暖かなある日、五歳のハルカが道路で遊んでいると、何処かから聞こえるきゅるきゅるいう音に引き寄せられ、辿り着いた場所は風車の家だった。
風もないのにきゅるきゅる回る風車を眺めていると、ぎぃぎぃと、子がすり抜けられるくらい門が開いた。
ハルカは微かなその声を耳にした。
「あそぼ…」
ハルカが開いた門から風車の家の敷地へ入っていった後、門はぎぃぎぃと閉まり、たくさんの風車も何事もなかったかのように静けさを取り戻した。
(了)
※フィクションです
シロクマ文芸部の企画に参加しました。
小牧幸助さん
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