『桜花びら』(ある遊女の語りごと)

ほら、あれを見てくんなまし 。綺麗な桜でありんしょう ?

あの桜木は、わっち が此処に来んした 頃から変わることなく、毎年、花を咲かせて来んした 。
花びらが、時々、お客様の肩に乗って、わっち の部屋へとまっておちんす 。
その花弁をわっち は、お客様に気付かれぬように懐紙に包んで胸にしまう。
お客様がお帰りになりんした ら、文机の上にある、草紙の間に挟んで押し花にするのでありんすぇ。

もう、幾度も繰り返していんす から、どれ程の花びらが挟まってありんす かは検討もつきんせん けど。

こなたの 花びらたちはわっち を買(こ)うて行ったお客様たちの外界からの土産物。

いつか、此処から出られた時に一緒に外へ舞うのでありんすぇ。

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