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【アルビノの魚】夜の言い訳

翌日が休みの仕事終わりは華々しい。
誰も僕を咎める人はいないから、飽くまで夜を堪能することができる。
朝がやってくることへの怖さも、罪悪感もない。朝に眠り、陽が傾く頃に目覚めれば良い。身体が許せば、いつまでだって起きていればいい。この日ばかりは顔に疲れが出ていても、眠たい眼で睥睨しても許されるだろう。

「60秒数えてみて」

「1、2、3、4、5、6...」

彼女の数えるそれは天文学的数値よりもはるかに遅かった。
つまり、夜が永かったのだ。−陽の光が空を青く染める頃、彼女が深海魚であることを知った。
彼女はいつもその訳を「兵役を免れたからだ」と言っていた。彼女の言選りには癖があって時々文脈を逸脱する事があったが、そのバグが僕には愛おしくて、彼女が織り成す言葉をいつも片言の日本語を話す外人のように繰り返した。
「ヘイエキ」
よくよく考えれば、僕は君にとって永遠の外人かもしれない。


「ア ハッピー ニュー イヤー」

それは二月頭のこと。
君と僕の間には三年と一ヶ月分周回遅れが存在していた。

「名前がないんだよ。在るだけ」

そして僕は夜に溶けることになった。



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