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世界を救うのは難しい

世界を救うのは難しい。目の前のことを棚に上げて僕はそんな大きな問題に勝手にぶち当たっている。自分一人さえ救うことのできないただの一人の人間だ。無力とは言わない、でもとても非力に感じる。

色んな事柄に思いを巡らせてはそんな漠然とした事に一喜一憂している僕の側で、エリスは僕が淹れたお茶を飲み干して満足げだった。天使が食事するなんて思いもしなかったので、単に僕に合わせているだけかもしれないが、最初は驚いたのを覚えている。幸せそうにティータイムの余韻に浸っている様子のエリスを見ていると、それに気づいてエリスがはにかんだ。

「どうかした?」

僕は穏やかに首を振る。

「ううん。ただこの時間が愛しいなと思っただけ」

僕の答えにエリスは赤面して、カシャリと音を立ててカップをソーサーに置いた。

夜のティータイムが好きだ。眠れなくなるといけないから紅茶は避けて、ハーブティーだったりココアだったりホットミルクだったり日によって飲み物は変わる。オレンジのライトとベランダから入る風で少し揺れるカーテン。エリスは天使なので当然家族はエリスの存在を知らず、僕が二人分の飲み物とおやつを部屋に持って行く事も多分気づかれていない。

エリスは少し首を傾げて僕を見る。「なんか考え事してた?」僕は蜂蜜を入れたハーブティーを掻き混ぜながら答える。「まぁ色々」

「色々って?」なんでか、エリスに訊かれるとすべて白状してしまいたくなる。甘えなんだと思う。彼女なら話を聞いて、それでなお僕を受け入れてくれるんじゃないかと思ってしまう。

そういう期待は相手に失礼なんじゃないかと思いながらも、結局おおよその事は白状してしまう。エリスは静かに一通り聞いたら、穏やかに笑って「ルフナの言葉使い、私好きだよ。それを続けて。言葉は影響力だよ」と言った。僕はぽかんとしていた。エリスは窓の外を見る。「行動と言葉は大事。でも最終的に世界を救うのは神様だから。心配しすぎないで。信じていて」彼女は当たり前のことみたいにそう言った。

僕は一人で湯船に浸かりながらその時のことを思い出していた。心配しすぎないで、信じていて。その言葉が夜風で少し冷えた体を温めるこの温かさに似ていると感じた。

部屋に戻るとエリスは僕のベッドで寝息を立てていた。眠る必要はないはずだけれど、僕と一緒にいる時間が長くなるとエリスも生活を真似るようになった。真似ているのか、影響を受けているのかは分からないけれど。

優しくぼんやりと光る彼女の髪を撫でた。僕は世界も、ましてや自分自身も救う事はできない。けれど僕は君に毎日救われているよ。ベッドに入って思う、ずっとこうしていたいな…少なくとも、君が目覚めるまでは。

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