【書評】ここじゃない世界に行きたかった:塩谷舞

同時代性を感じる書き手。

塩谷舞初の著書『ここじゃない世界に行きたかった』は終始それを感じさせる一冊だった。

生まれは1年違い。

新卒で働き始めた業界も、

著者はWEBメディア。自分は広告代理店のWEB部門。

その後、年月を重ねるにつれて(これは誰もがそうかもしれないが)

働くこと、生活することへの意識が変わっていくこと。

そんな出自から、様々な変化まで。

自分の体験や、今感じていることとの類似性を感じながら拝読した。

著者も自分も、大学を卒業し働き始めたのは2013年前後。

多くの企業がWEBやソーシャルメディアを活用し始めたタイミングで、だからこそ、うまい活用の仕方、協力会社との付き合い方が未知数だったように思う。

今ではそれこそ炎上するような働き方を強いられることも珍しくなかったし、

働くってそういうことだよなと思っていた。少なくとも自分は。

しかし振り返ってみると、

まったく生活をしていなかったなと思うし、

自分の好きだった多くのものを捨てながら過ごしていた。強要されたというよりも、自らそれを選択する形で。

著者の塩谷さんも、同じような生活をされていたのかなと感じる場面も本作では描かれている。

その中で彼女はフリーランスになり、

また夫の仕事の都合でニューヨークに住むことになった経緯もあり、

自分の大切にしたいと思っていることや社会に対して思うことが変化していく様は、

過程は違えど自分と非常に重なる部分だなと思った。

それは2013年前後の時代で働き始め、

働き方を見直していかなくてはいけないという社会的な風潮や、

多様性への目線、

ソーシャルが一層インフラ化し、

自分とは異なる場所に属する人の意見も聞くことができるようになった流れの中で、

同世代の多くの人が感じていたことを、

本作が見事に言語としてキャプチャしていることの証明であると感じた。

自分がどこで、どう生きるのかというモデルケースのようなものが、かつてはあった気がしていた。実際にはそんなものどこにもないのに。

それに気付いた上で、拠り所となるものはなにか。

それは自分自身の感性であり、

なにを美しいと思うのかという価値観なんだということを、改めて考える読書体験だった。

世界も、社会も、確かなものはなにもないし、誰もに対して平等には手を差し伸べてはくれない。

その中で、一人の人間としてどうやって生きるのかを、自分も模索しながら、生活していく。

少なくとも一人は、(勝手に自分が思っているだけだが)同じような価値観を持っている同世代が存在することに、ちょっとした安心感を持ちながら。

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