【書評】令和元年のテロリズム:磯部涼

生きることの怖さと理不尽さ。

自分が本書を読みながら常に感じていたのは、この感情だ。

令和元年に起こった凶悪殺人事件を取り上げたルポタージュである本書は、

殺人事件の犯人やその家族、周囲の人間の証言を元に

事件がなぜ起こったのか、個人・社会の両面にフォーカスし明らかにしようと試みている。

その中で自分が恐怖を覚えたのは、

自分の努力だけではどうすることもできない理不尽さに、常に晒される世の中を生きているのだと改めて実感したからだ。

相対的に日本という国全体が貧しくなっていくこの世界において、

自分では想像もできないような考え・不満を持つ人は今後ますます増えていくだろう。

その流れの中で、

例えば道を歩いているときに、自分に危害が加えられる可能性。

もちろんこれまでもゼロではなかったが、その可能性が高まる世の中になっていくと思う。

新型コロナウイルスの影響もあり、格差が更に広がることも間違いないだろう。

そんな中で社会的弱者と定義される人々をどのように支援していくのかという観点で現政権をみると、甚だ頼りなく感じる(これは別の側面から見ても同じではあると思うが)。

また本書の重要な要素として、親子関係が挙げられると思う。

特に元農林水産省事務次官長男殺害事件の章は顕著だ。

俗にエリートと呼ばれるキャリアを築いてきた人間が、

親子関係の問題でついには殺人を犯してしまうまでの過程は、

立場がどうこうではなく、全く他人事ではないと感じた。

自分自身はもとより、

自分の親が同じことを起こさない保証は、どこにもないのだ。

今、自分が一応社会人として働いて自立して生きていることはある種の奇跡だし、

その奇跡が今後も続いてくかどうかなんて誰にも分からない。

今がいつ崩れるかわからない恐怖。

そしてその理不尽。

これらを生々しく喚起させられるルポタージュであった。

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