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株式市場攻略メモ:シンクロフード 求人数から見る業績予測について

久々に攻略やっていきます。11月12日に第2四半期の決算発表のあった株式会社シンクロ・フードについてです。

1.概要

シンクロフードは、「飲食店.com」等のプラットフォームを運営し、飲食店の開業支援や求人媒体等を行っている企業。飲食店の支援という意味では幅広く、飲食店のM&A仲介等も手掛けていますが、現在のところ求人広告が収益面での主力となっています。社名にもあるとおり「食の世界をつなぎ、食の未来をつくる」がミッションとのことなので、事業領域は食にまつわる周辺事業まで想定しているのだと思われます。代表取締役社長の藤代氏はアンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)出身のコンサル畑です。

2.収支推移

これまでの売上と営業利益の推移は次のとおり。当社の決算説明資料がわかりやすいのでそのまま引用します。

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飲食店の支援を行うというビジネスモデル上、コロナ禍の影響が直撃しており、2021年度第1四半期に上場以来初の赤字に転落しています。飲食店そのものは休業補償金もありましたが、周辺産業は休業補償の適用対象にならなかったりして、苦しんでいた企業も多い印象ですが、シンクロフードもその一つでした。

収益構造を説明すると、シンクロフードのモデルにおいて特筆すべきは限界利益率の高さです。限界利益率とは「売上が1増えたときに利益がいくつ増えるか」を示す指標で、例えば1000円の売上が立っても900円の仕入が必要な卸売業者であれば、売上が1増えるごとに0.1の利益が増えていますから、限界利益率は10%となります。

シンクロフードで考えると、飲食店.comの求人広告が増えたとしても、その分仕入を行う必要がないため、サーバー等の経費を除いて売上が立った分ほとんどそのまま利益になる構造になっています。それを踏まえて、シンクロフードの限界利益率の推移を抑えたグラフを作成しました。

※補足:限界利益率の算出方法としては厳密に言うと売上原価と販売管理費の内訳データを取得し、それぞれ固定費と変動費に分解するのが正確なやり方ですが、上場企業の決算資料においてはザクッとした数字しか公開されないので、今回の計算においては売上原価=変動費、販売管理費=固定費として計算しています。過去の数字の推移を見る限り、その整理方法でシンクロフードにおいてはかなりの正確性があるかと思います(例えば販管費の内訳はほとんど人件費であり、固定費と判断できる)。

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限界利益率は80〜85%程度となることが多いようです。これはかなり高い。

他の産業で例えると、仕入がほとんど発生しないビジネスホテルとほぼ同程度の水準。限界利益率の高い企業は、売上が減少したときにそのまま利益が減少する弱みがありますが、逆に売上が増加するときは利益が急増するのが構造上の特徴です。かつてガンホーがパズドラで一発当てたときに利益が急増しましたが、あれもユーザーがガチャで課金してもガンホーは仕入をする必要がないビジネスモデルだったので、限界利益率が非常に高く、売上がほぼそのまま利益に化けたためですね。

3.足元の求人状況から予測する今後の業績

限界利益率の高い企業においては「1に売上2に売上34がなくて5も売上」といってもいいくらい売上が重要です。
コロナ禍でシンクロフードが赤字転落したのも、売上が急落したから(一方で仕入がないので売上が減っても費用が減らない)であり、今般僅かながら黒字を計上したのも売上が増えたからです。
では、今後シンクロフードの売上はどうなっていくのか、それが把握できれば当社の未来がわかるわけですね。

ことシンクロフードにおいては、当社が決算を発表する前にそれが概ねわかっちゃうんですよね。
カラクリは簡単。求人広告が収益の主力なのだから、求人数を見ればいい。求人数は公開されているので、定点観測するだけで当社の売上がわかります。前述のとおりシンクロフードは限界利益率の高い企業なので、売上がわかれば利益がわかります。というわけで、最近コツコツと飲食店.comの求人数について定点観測していました。結果がこちら。

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緊急事態宣言解除後の第3四半期に入ってから求人数が急増しています。この頃は毎朝ブラウザのタブをリロードするたびに求人数増えていってすごかったですね。確かにこれは飲食店の人手不足がニュースになるわと。
実はもっと前から見ていたのに数字の記録付けていなかったので記憶の限りにはなりますが、第2四半期である7〜9月は13,000〜16,000程度で推移していました。第2四半期の期間平均は中間くらいの14,000台だとしても現在の2万超の求人数に置き換えれば、足元では約1.5倍の売り上げになっていると推測されます。

では、この指標を使って今後の業績を予測してみます。もう11月も半ばとなりましたが、あと1ヶ月この水準の求人数が横ばいで続くと仮定すると、第2四半期の売上が423百万円だったので、これを1.5倍して第3四半期は約600百万円程度の売上となることが予測されます。
シンクロフードの限界利益率は80〜85%ですので、固めに80%で計算すると、売上600百万円×限界利益率80%で、粗利は約480百万円と推計されます。ここから固定費を引いたものが営業利益となります。

ここで一旦固定費を検討するために決算説明資料で公表されているシンクロフードの販管費の推移を見てみましょう。

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販管費(固定費)は約300百万円程度で推移していることがわかりますね。ボーナス月である12月を含むので第3四半期は多少増加するとして、320百万円と見積もりましょう。これですべての数字が出ました。

粗利480百万円に対し販管費は320百万円なので、来年2月に発表される10〜12月の第3四半期における営業利益は概ね160百万円と推計できます

11月12日公表の当社による業績予測によると第2四半期までの累計営業利益は99百万円なのに対し、年間の営業利益予測が270百万円なので、仮に第3四半期の営業利益が160百万円であれば第3四半期終了時点でほぼ年間計画を達成してしまいます。もしかしたらもう1回緊急事態宣言を織り込んでるんじゃないかというくらいの固めの数字ですね。
というわけで、このままコロナの感染者数が落ち着き、飲食店の営業制限がなければ利益の上方修正がかかり、緊急事態宣言が再び行われた場合は当社発表程度の業績に着地するのではないですかね。

個人的に投資は「パラメーターの伏された信長の野望」と思っていて、信長の野望だと石高や兵数等の示されたパラメーターをもとにプレイヤーは判断を行いますが、投資は判断根拠となるパラメーターが隠されてて、シンクロフードにおける求人数のようにパラメーター自体をプレイヤーが見つけることまでがゲームに含まれている感じ。
こう考えてみれば、ゲーマーは投資をかなり面白く感じるんじゃないかと思うし、本質的に相性良いと思います。投資はリアリティのあるゲーム。

4.中長期的展望

短期的な業績予測に関してはここまで見てきたとおりです。
しかし、短期的に業績改善してそのまま横ばいのような企業であれば先もありませんし、投資する価値もありません。

シンクロフードの中長期的的な展望はどうなのか。
このようなとき、企業の実力(特に経営者の能力)も重要ですが、個人的にはマクロ指標の重要性のほうが極めて高いのではないかと思ってます。マーケット自体に未来がなければ、経営者の力がどれだけあったとしても企業を成長させるのは難しいでしょう。
将来的にはM&A等を成長分野としていくのかもしれませんが、求人が引き続き収益の核となっていくことは間違いないでしょう。これに関してパーソル総研が参考になるデータを公開しています。

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人材派遣のパーソルが作ってるデータなので多少は盛ってるところもあるかもしれませんが、各種シンクタンクのどのレポートを見ても人手不足を指摘しないレポートは存在しないので、方向性に関しては信頼してよいでしょう。その中でも特にサービス業の人手が400万人も不足すると指摘されていることは注目して良いと思います。

結局のところ、中長期でものを見るときは大きな物語に「収束」するのが常ですし、人手が不足するという構造自体が解消されるとは思えない。
ロボットで配膳とか言ったところで、バイトしたことある人ならわかるでしょうけど、飲食店の作業というのはわりと複雑な作業で、安価なロボットが代替できるような作業ではありません(仮にできるとしても驚くほど高機能高価なロボットになるはずであり、飲食店ではペイしない)。
したがって、少なくとも当面の近未来においては飲食店では人が働き続けるし、その未来を前提とするならば人手は不足し続け、求人需要は旺盛であり続けることでしょう。あるとすれば、求人自体はあるけれども、求人をする手段がウェブサイトではなく別の手段に変わるとかそういった変化はあるかもしれませんが。

投資をするときは大きな物語に張って寝とけ、というのが自分のポリシーですが、シンクロフードはその路線から今のところ外れる企業ではないと見ています。

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オマケ。コンサル出身の経営者だけあってこの規模の企業にしては英語の決算説明資料も作成していて、先を見据えた企業経営をしてると思わされるのも好印象ですね。更に言うならば、先ほどの求人数のデータのようにKPIとなる指標を月次で公表してくれるとなおIRとしては良いとは思います。

まぁ公表される前に先に見つけるのが株式市場攻略ゲームの面白いところでもあるんですけどね。念のためですが、求人数から出した業績予測は私の推測にしかすぎませんので、当たるも八卦当たらぬも八卦ということで。
3か月後の実際の決算を楽しみにしてます。

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