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超ボーマスへ行って貝殻をひろった

先日ボーマスへ行った。年に何度かあるボカロの即売会みたいなもので、普段は単体で開かれるようなんだけど今回はニコニコ超会議という大きな催しの中で行われていた。
開催地は幕張メッセだったのだが、当日の朝、なにを思ったか私は東京ビッグサイトに向かっていた。それは圧倒的確認不足ゆえの愚行。公式様が千葉でやるよ〜幕張だよ〜と何度も周知してくれていた告知各種に一瞥もくれず、浅薄な思い込みを胸にひた走ったのだった。

無事(無事では無い)ビッグサイトに到着した私は、あれぇ〜?だいぶ穏やかな人入りだなぁ〜?思ってたよりゆっくり周れそうだなぁ〜!と阿呆面を晒しながら会場へ辿り着いた。
しかし駅からの道中も会場内でもニコニコの二の字も見当たらない状況に流石の阿呆も不穏さを感じ、案内番を持っていたお姉さんに「あの〜このニコニコ超会議ってどの辺でやってますかね?」とスマホを見せて尋ねると「これ…千葉でやってますよね。ここ東京ですね」と苦笑いで言われようやく過ちに気づいた私は、千葉と東京の識別もできないひなびた田舎のおイモさんとかそういうレベルをゆうに超えたやばい奴になっていることにテンパり「あっ、あっ、ありがとうございましたっ」とピトーに脳を弄られてるポックルみたいな鳴き声をあげながらビッグサイトを飛び出した。
なんたる失態。幸先が悪いどころか幸先が爆発四散して跡形もなくなっている。グッドバイ幸先。おれたちに幸先はない。

𓆡𓆡𓆡

なんやかんやで幕張に到着。関係者入口から入りそうになり止められたりしつつ、どうにか一般口を見つけ入場。
とんでもない音と人と熱気だった。四方八方でEDMの低音やらゲーム実況の叫び声やら歌い手さんの歌声やらが飛び交い、さながら娯楽的阿鼻叫喚といった様相を呈している。ボーマスのブースを探そうとするも人の波がすごくてマップの確認もままならない。場内は見渡す限り思い思いのコスプレをした人々や目を爛々と輝かせたオタクの方々や忙しく駆け回るスタッフさんたちでごった返している。オロオロしてる間にフリーレン一同とかぼっちちゃんとかシンプルな恐竜とか頭だけロボットの何かなどにあれよあれよ流され、気づけば会場の端にいた。
ここは…どこ…?ボーマスは…どこ…?とひとしきり狼狽えてからとりあえず壁際へ退避。横になってがっつり寝てるおじさんと麺類をすすってるお姉さんの間でマップを凝視して、そこでようやくボーマスエリアをとっくに通り過ぎていたことが分かった。各ブースの大まかな位置関係を把握したところで色々と限界に達しメイン会場から一旦離脱。野外に近いところに置かれていたベンチでしばらくグッタリした。

再び足を踏み入れた会場は相変わらずお祭り特有の混乱に近い熱気で満ち満ちている。最近ライブにも殆ど行ってなかったので忘れていたが(アホ故すぐ忘れる)、私はこういったイベントでかなり消耗するんだった。にしてもこんなにへとへとになってたっけ。疲労の度合いは年々増していくようである。ただ立って歩いているだけで満身創痍のこの体たらく。よもやお望みのブース探し当てて商品をお求めになるなんて所業が私にできるのか…?いや、ここまできたらやるしかねぇ!と意を決し、突如眼前に現れる半裸サスペンダーマッチョやピンクの全身タイツに怯えつつもREDさんと安藤なれどさんのCDを手に入れた。もっと回りたかったけど、そろそろ再起不能になりそうだったので早々の撤退に甘んじた。さらば超会議、さらばボーマス。何だかんだ言ったけど、とても楽しかったぞっ!挨拶できなかった方々、すみませんでした…いつかお話したいです…!また来るぞっ!…もうしばらくはいいかもだけど……!!

𓆉𓆉𓆉

近いしどうせならと足を向けた海までの道は、さっきまでの喧騒とは打って変わって穏やかな往来。超会議から抜けてきたっぽい人もチラホラいて、本日何人目になるかわからないぼっちちゃんが少し前を歩いていた。彼女もどうやら海へ行くらしい。そんなラバー製の竹馬みたいな厚底で浜辺を歩くつもりなのか…なかなか気概があるぼっちちゃんだぜ…と関心していたら階段で思いっきりコケていた。心配〜〜〜。

海岸周辺特有のでっかい歩道橋を渡って防砂林を抜けると、そこは夕暮れ時の海だった。砂浜に散見する家族連れや学生たちの黒いシルエットと、夕陽色に光る水面のコントラストが綺麗だった。海までの道すがら綿毛をたたえたタンポポがはえていたので、浜辺で吹いたらさぞ素敵であろうと摘んでいったのだが、容赦のない海風にさらされて着いた頃には裸のガクがポツンと手のひらに残るばかりであった。
無惨な姿になったタンポポをそこらへんに供養して水際までいき、ふと後ろを振り返るといつの間にか追い越していた厚底ぼっちちゃんが遠くに見えた。ピンクの長髪が風になびいて、というか搔き乱れてすごいことになっていた。色違いのモリゾーみたいだった。みんな、幕張に行くときは海風に気をつけてね。

𓆟𓆟𓆟

適当な流木の上に腰掛けてぼんやりしてから、波が砂上につくる陸と海の境界線を踏みながら貝殻をひろった。私は貝殻拾いがとても好きである。あれは大きいけど端が欠けてる、これは形が悪いけど色が鮮やかだ、などと心の中で独りごちながら下を見てるだけで楽しくなれるし、一人でも寂しくなくて落ち着く。
拾いだすと没頭してつい抱えきれないほど集めてしまう。だけど結局は全て海に置いていく。まず持ち帰らない。そのための袋なんて用意してないからポケットやカバンが砂だらけになるし、せっかく綺麗な形の貝殻でも家に着くまでにどこかしら割れて欠けちゃうし、何より机に並べると海辺では確かに感じた魅力が悲しいほど消え去って、そこらに転がる無骨でつまらない石となんら変わらなく見える。
どうせ持って帰らないことをわかっているので、目についた綺麗なものを手当たり次第に拾っても面倒な心配事はいらない。そういう無責任な満足感にずっとずっと浸っていれたらいいのになぁとか思う。だけどそういうわけにもいかないから、だから貝殻拾いが好きなのかも。

延々と歩いた海岸沿いに、どうやって流れ着いたのか不思議に思うくらい大きい石があった。貝殻はもう持ちきれなくなっていたから、その石の周りに積み上げてみたらなにかの儀式みたいになった。私はそれに小さな満足感を得て、同時に自分が疲れ切っていることを思い出した。両手いっぱいの貝殻がなくなって、持ち物は減ったはずなのに身体はむしろ重たい。小さい頃の放課後、友だちと公園で遊び回った後の一人になった帰り道、あの空っぽな気持ちになんだか似てるなぁとか思いながら、幕張の海を後にした。


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