近未来の記憶力アップ法 --- 脳深部刺激療法

---脳のドーピングは可能である。しかも、誰にも気づかれずに。
誰しも、自分がもっと頭が良かったら、と思ったことはあるだろう。
そこまで行かなくても、今日は頭がさえてるな、とか、頭が回らないな、ということは良くある。
ところが、これが自分で調整可能だったらどうだろう。

『闇の脳科学 「完全な人間」をつくる』には、そんな想像をかき立てる科学的事実が書かれている。

脳深部刺激療法 (Deep Brain Stimulation: DBS)は、脳に電気刺激を与えることで、様々な疾患を治療するもので、パーキンソン病で最も良く使われている (日本でも保険適応)。
 このDBSで脳のある部位を刺激することにより、記憶力が向上するという。この記述を読み、とある論文を思い出した。

それは、「手を握ることで記憶力が向上する」(文献1)、という実験だ。
もう少し説明すると...
「右手を握ってから記憶、左手を握ってから想起」することにより、単語テストの成績が向上する。
面白い事に、右手・左手を逆にすると、何もしないよりも成績が下がってしまう。
こんなことはなぜ起こるのだろうか。
エピソード記憶において、左前頭前野が encoding (エンコード) に、右前頭前野が retrieval (引き出し) 関わっていると言われる。手の運動は逆の脳 (右手→左脳、左手→右脳)を活性化させるのだから、正しく刺激する(手を握る)ことによって記憶力があがるのでは、と考えられている。

さらに、記憶力向上といえば、"スマートドラッグ"がある。
ADHD (注意欠如多動性障害) の治療にも使われるアンフェタミンだが、覚醒作用があり、日本では覚醒剤として規制されている(*)。
このアンフェタミンは、記憶力を向上させることから、"スマートドラッグ"と呼ばれ、米の大学では、学生が試験前などに記憶力向上のために服用することは珍しくないという。

 誰しも、自分の能力を高める方法があれば、試してみたいだろう。
 手を握る方法は、簡単で非侵襲的だが、かなりアバウトな方法である。薬物に頼るのも、脳のピンポイント刺激ではないため科学的に見れば非効率的とは言えないし、副作用の心配もある。
 脳の電気刺激はどうだろう。もっと、記憶に関わる部位を直接的に強く刺激できれば、記憶力を効率的に高められるに違いない。

 現在は、DBS の侵襲性から、記憶力向上目的に行うことは現実的ではないが、技術的には可能である。さらに、非侵襲的な刺激方法の開発が進めば、脳の電気刺激による「脳のドーピング」が当たり前になる日が来るかもしれない。

*ADHDの処方薬としてアデロール (Adderall)があるが、日本では覚醒剤として規制されている。2021 東京五輪・パラリンピックの際、ADHDを持つ海外選手に対し、アデロール (Adderall) の持ち込みを認めるかどうかが問題となった。最終的には、改正特措法により持ち込みが特例が認められた。

文献1:
PLoS One. 2013 Apr 24;8(4):e62474. doi: 10.1371/journal.pone.0062474.
Getting a grip on memory: unilateral hand clenching alters episodic recall
Ruth E Propper , Sean E McGraw, Tad T Brunyé, Michael Weiss
PMID: 23638094 PMCID: PMC3634777 DOI: 10.1371/journal.pone.0062474


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