#33 私の両親への挨拶・当日③ 【マッチングアプリで出会ったモラハラ婚約者と別れた話】
一度気になったら、気になって気になって仕方ない!
わんこくんのコートとジャケットをハンガーにかけて、椅子を勧めた。でも、彼はハンガーをチラチラ見て座ろうとしない。
うっわーー、そういうこと!?
すごいなぁ、そこまで人目を気にするんだ…。確かに、私が彼の立場でも「私が雑にかけたみたいじゃん!直したい!w」って思うけど、実際には直さないな。何でだろ。
後に、男友達Bにこの話をしたら、「ていうか、人にかけてもらったのを直すってのは失礼。駄目出ししてるってこと」とスパッと言われて、なるほど!だから私も直さないのかも!と思った。
服が左右対称になるよう微調整する彼のこだわりっぷりは、ちょっと病的だった。左に傾けては右に戻し、いや、もう少し左かなとまた戻し。一度気になり始めたら、気になって気になって仕方ないのだ。本人曰く、これもADHDの特徴だそう。
気にすること自体はいいけど、もし、他に優先すべきことがある時にこだわりの感情をコントロールできないなら、それはちょっと困りものだね。私の両親が彼を待っていたとしたら、彼は微調整するのを中断してくれたのだろうか。
発揮するタイミングを間違えなければ、こだわりが強いのは決して悪いことじゃない。それよりも、この時は「人に良く見られたい」という承認欲求の強さの方が気になった。
仏壇に手を合わせる時間が長すぎる
ランチの前に、祖父の家の仏壇に手を合わせることになり、わんこくんも来てくれた。私は合掌して心の中で叫んだ。
「おばあちゃーん、彼氏を連れて来た!結婚しちゃうかも!よろしくしてやってね!(軽)」
彼は上品な所作でお線香を香炉に立てて手を合わせ、長い間、そのまま動かなかった。1分以上待って、沈黙に堪え兼ねた母が、私に「長いね」と小さく笑い、私が「いつもなの」と答えた。
神社で手を合わせる時もそうだ。後ろにどれだけ人が並んでいても、時間をかけて熱心に何かを願っている。神社の敷地内に複数の神殿があれば、それらすべてに祈りを捧げるので、なかなか終わらない。信心深くない私にとっては退屈な待ち時間。
結局、母は彼を待っている間、畳の上のゴミ拾いをしていた。「ちょっと変わってる」と思われたと思う。でも、前向きにとらえて「真面目で誠実な性格なんだね」と言ってくれた。
コミュ力があると言っていたけれど…
この日のランチは、地元のタイ人の友人にタイ料理のデリバリーを頼んでいた。キッチンの勝手口から友人が顔を覗かせ、「持って来たよ~。料理たくさんよ~」と弾んだ声も一緒に配達してくれた。
私と両親は友人に駆け寄った。立ち話に花が咲く。私は、振り返ればわんこくんもそこにいて、自ら自己紹介をしてくれるんだとばかり思っていたんだけど、彼は一人でぽつんとダイニングテーブルに残ったままだった。ありゃ?
友人が「りんちゃん~、彼氏できたのぉ~?お幸せにねぇ~!また今度詳しく教えてねぇ〜!」と私をからかったり、遠くのわんこくんにヒラヒラと手を振ったりして、そこで彼はやっと起立したけど、なぜかこちらへは来なかった。
え?挨拶してくれないの?
彼のことだ。「人の家の中を勝手にうろつくのは無礼。かと言って、座りっぱなしもどうかと思うから、一応立ってみた。呼ばれるまで、待ちスタンスでいるのがベターだと判断した」とか何とか考えているのだろう。
わんこくんはお客さんなのだから、私が彼を呼んで紹介してあげるべきだった。悪いことをした。
でも、そこまでしなくても、空気を読んで勝手にコミュニケーションを取って欲しかったなぁ。人と話すことに自信がない恋人ならそこまで求めないけど、彼は「おれ、コミュ力あるから。任せて」と豪語していたので、私は安心し切っていたし、率先して動いてくれるもんだと思っていた。
そもそも、普段の彼なら「どうも。わんこと言います~!」とラフに挨拶してくれそうなものなのに、どうしていつもと行動パターンが違うんだろう。今回は、「成功させるためにはどう動くべきか?」を頭でこねくり回して考えて、空回っている印象がある。
相手の言葉をそのまま受け取りすぎる
ランチを食べながら、両親がわんこくんに色々と質問し、彼が前向きな回答をして、まあまあ盛り上がった。私は、二人の共通点をたくさん話した。
アプリで出会ったことは言わなかった。二人とも聞かれたら言うつもりだったけど。妹だけは知っている。
母がわんこくんを呼び、犬を紹介し始めた。
コミュ力の鬼・りんママにかかれば、その場は勝手に盛り上がるので、彼の相手は母に任せ、その間、父が食器を洗い、私と妹はおしゃべりをしていた。母と妹には彼がADHDであることを事前に伝えていて、その感想を妹に直接聞きたかった。
ふむ。そうか。ならいっか~。
周りが何かしらの違和感を感じるかどうか、感想を聞きたかったけど、私自身はADHDのことをそこまで気にしているわけではなかったので、この話はこれで終わった。
私は、恋人を選ぶときに「私がいなくても、恋人が私の家族と和気あいあいと話しているところをイメージできるか?」と考える。想像できなかったら、あまり付き合いたいと思えない。
その点は大丈夫だった。彼はおしゃべりするのが好きだし、犬好きという共通点もあったので、母とはすぐに打ち解けた。
彼は犬好きだ。親が飼うことを許さなかったから、犬を飼うことへの憧れがすごく強い。だから、うちの子たちに会わせてあげたかった。
母の言葉通り、彼はソファに寝転んだまま犬たちと戯れ続けた。うれしそうにキャッキャ言っている。
ところが、犬と遊び疲れた母がダイニングテーブルに戻り、キッチンを片付け終えた父も戻り、家族全員が着席しているのに、わんこくんはいつまで経ってもこちらへ戻らなかった。私たちには目もくれず、ソファに寝転がったまま犬と遊ぶことに夢中だ。
確かに、母は「自分の家のようにリラックスして」と言ったよ?でも、さすがに長すぎない!?犬がソファに乗ることが分かったら、もういいでしょ!笑
わんこくんは、言葉の裏の裏を読みすぎる考え過ぎな一面もあれば、相手に言われたことをそのまま鵜呑みにしてしまう素直な一面もあるんだよね。今は後者のモードかー。
初訪問でスーツのままソファに寝転がり、犬と戯れて毛だらけになっている娘の彼氏を見守る家族、という謎の時間がしばらく続いたw
両親も私も、「そろそろ、本題(将来の話)に入らない?」という面持ちで彼を10分近く待ち、さすがに気まずい空気を察知した私が「わんこくん、そろそろこっちに来ない?」と声をかけた。犬の相手をするんじゃなくて、私の両親の相手をするのが今日の君の使命なんだぞ!!
しかし、満腹による眠気に負けた父が「マッサージチェアしてくるわ~」と言って、別の部屋へ行ってしまった。こっちも自由だな!
あぁ、締めるところを締めてサクッと帰りたいのに、だらりとした時間が続いている…。
その後は、母と、わんこくんのスーツについた犬の毛をコロコロクリーナーで取りながら、「お父さんが戻ってきたら同棲するって言おうね」と話した。私から言ってもいいけど、彼のことだから自分で言いたがるはず。
しかし、私は彼が口を開くのを待ったけど、結局言い出してくれず、とうとう帰る時間になってしまったので、父には近々同棲することを言わずに帰った。
―― 私のメンタル崩壊まで、あと140日 ――
(この日は、次の話に続きます)
りん