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【艦これ】“残響ノ鎮魂歌”から考える響の祈り【キネマ106】

戦わずして生き残る屈辱と、次々に襲う残酷な別れ。残響を繋いで生き延びた駆逐艦、響。彼女が語った激動の物語から考える、響が思い描いた70年後の未来。

残響ノ鎮魂歌とは
音楽サークル、キネマ106の楽曲。艦隊これくしょんのキャラクター、響がモチーフの30分を越える大作。史実を組み込んだ歌詞に定評あり。

一曲とは思えないくらいのボリューム。自然な流れでありながら同じ曲とは思えないような展開の幅広さ。揺れる水面のように穏やかで、焦げ付くように激しく、光が差さない海底のように暗い。救いようのない絶望が蔓延る時代に戦う響の孤独さが胸を締め付ける。イラストと映像も艦これの響が持ち合わせた透明感と冷たさがとても美しい。3人のボーカルが紡ぐメロディーは透明感が溢れている。それぞれの個性が光り、激情、可愛らしさ、嘲笑、、といった感情たちが3種の声で歌われる。曲も映像も声も、綺麗なのだ。戦争がもたらす破壊と響を形容する美が共存する30分。そこで語られる響の半生を考察する。

「残響ノ鎮魂歌」歌詞考察

聴く者に語りかけるように始まる彼女の物語。

“残響の鎮魂歌を 声を枯らして歌う/空に 届きますように”
後にも何度か出てくるサビの歌詞だ。最初のサビでの意味は、
轟沈していった艦たちが忘れ去られないように、「残」された「響」が“声を枯らして歌う”、ということだろうか。
残された、ということを生き残ったという意味で幸運と捉えるか。或いは他の艦が沈み孤独になったという意味で不幸と捉えるか。
“ここでみんなが歩んできた 道と存在の証明/遠く届きますようにと 高く掲げ”
少なくともこの段階では、響には“声を枯らして歌う”という使命があるように思える。残されたことは必ずしも悲しいことではないのかもしれない。終戦から時が経った今となっては、だが。

1番Aメロ、
“いつも隣で騒がしく笑ってた”から別れの展開までがとにかく早い。
響が第六駆逐隊として過ごした笑顔の日々から一転、次に待ち受けるのは暁、雷、電、が海の底に消える描写である。淡々と紡がれた破滅の言葉は冷淡な海の色をしていて、幻想的とさえ感じる。“手と手を繋いで”歩んだ仲間とは思えないくらい、このシーンの響は無感情だ。大好きだった仲間の死を語るのに感情を押し込める響は、

サビで耐えきれずに感情を泣き叫ぶ。
“鳴り止まぬ 残響の鎮魂歌を 声を枯らして歌う” 
ここで、歌詞は第六駆逐隊でただ一人残された響の哀悼の叫びの意を持つようになる。
揺れる、掻き乱す、裂けた、締め付ける、抉り取る、といった痛々しい感情の波。その中に浮かぶ“返してとただ呟いた”が響の一番の思いなのだろう。自分ではどうにもできなかったという無力感、気づいたらみんな海の底。そんな絶望はどれほどのものだったのだろうか―
“頬を撫でて零れ落ちる 鈍く響いた共鳴”
もしかしたら、響と沈んだ第六駆逐隊の仲間たちが最後に涙で共鳴したのかもしれない。沈んでいく3人の涙をきっと響は見たのだろう。それを響をどう思ったか―“抉り取る”という歌詞が語るとおりだ。

感情を吐露する痛々しい場面から一転、沈み込むような曲調に変わる。
“ふわり ふわり”“ひらり ひらり”と軽量感のある言葉が絶望を包む。響の手から仲間や約束、後悔でさえもゆらゆらと離れていく。抵抗もできずに色んなものが剥ぎ取られていく響の諦めとそれに伴う無力感が羽のように軽い言葉に浮かぶ。ふわり、ひらり、ゆらり、といった優しい言葉たちと裏腹に募る黒い虚無感。

“希望なんてバカバカしくて” “もうどうでもいいや”
と全てを捨てたくなるのも頷ける。それでも悲惨なのは、残された以上戦わなければならないということだ。
“それでもなお戦うのは それを否定すればするほど/君の全てを否定していく 気がして…”
戦いが終わるまで、もしくは自らが沈むまで戦わなくてはならない使命。戦争なんて否定したいのに、そこで失われた大切な命を思うと前を向くしかできない葛藤。どんなに勝ち目がなくても諦めたくても、逃げる訳にはいかない孤独な不死鳥。

この場面で響の葛藤は多く綴られているが、実際は第六駆逐隊の解散に気を落としている場合ではない。目まぐるしい時の流れの中で、響は諦めの中に“次こそは守れるように”という決意を見出す。

そんな矢先である。響は雷撃を受け、修理を余儀なくされる(そのすぐあとに蔓延した赤痢を形容する詞と言われることもあるが、“戦えない”という描写から、ここでは触雷の損傷と考える)。この影響で、響はレイテ沖海戦に参戦することができない。
“命燃やす 紅蓮の激震 黒煙を撒き散らし”
肌を焦がす炎が熱く、その度重なる悲劇を嘆くように黒煙が広がる。
“音も光も引き裂くように光へと消え”た。響は闇の中にいるのだ。未来への視界を奪う黒煙の中に。希望など見当たらない絶望の底に。

響が直接炎に晒され、損傷を受けたのに痛みについての描写はない。
響の思いは、“悔しさだけを残した”。損傷そのものよりもそれによって出撃できない事実の方が響を痛めつけるのだ。

悔しさと絶望を叫ぶように、サビに入る。
第六駆逐隊を失ったサビは「生き残ってしまった」という意味の“残響”、
触雷で修理を受けるこのサビは「参戦できずに取り残された」“残響”。
“空に届きますように”も、「天国」と「同じ空の下戦う仲間へ」。意味が変わるように思われる。
どちらにしろ、不本意に残された響。溢れ出した“叫ぶ 叫ぶ 叫ぶ”の力強さにありったけの戦争への反抗が込められているように思う。

“君たちも残されたんだね 残酷な運命だ”
幸運艦と形容されることもしばしばある、生き残った響たち。そんな幸運艦への皮肉が含まれたフレーズだ。大切な仲間を失い、修理のタイミングという残酷な運命と皮肉な強運に導かれるままに残された響。生き残って気づいたことは争いの無意味さだけ―。戦争に意味も意義もないと信じたらあの子たちの沈んだ意義は?そういった葛藤が“消して 消して”という願いになる。信じるものも分からない、というような混乱した響の心中が、それでも君の声は忘れない、という決意とともに綴られる。

ここで桜に関する歌詞が3種出てくる。
“桜舞う激情”、“桜散る焦燥”、“桜枯れ落ちた狂躁”。
響の戦争に対するモチベーションの変化だろうか。日本の美を象徴するような桜と、激しい感情を形容する言葉たち。この対比がぞっとするほど破滅的に響く。相手を駆逐する為に激情を募らせ、桜が散るように失ったものの多さに焦燥感に駆られ、枯れ落ちた希望を前にして狂躁する。深くて暗い、自棄と諦観。

“手にするのは勝利なのか 泥のような屈辱なのか”
“手にするのは侮蔑なのか 錆び付いた勝利なのか”
ここには所謂戦争の勝ち負けと響の考える勝ち負けの乖離が現れていると思う。
戦争は勝利を収めるか、負けて屈辱を塗りたくられるかだ。
しかしもちろんそれは表面上の話で、響からすれば
自分の持つ火力すら満足に出せないことによる侮蔑か、意味のない争いで大切な仲間と引き換えに得る、錆びて意味を為さない勝利なのだ。

“また会えますようにと”願った先に炎を見つけたとき、響は何を思ったのだろう。またか、という諦め?どうして、と疑問に思ったんだろうか。それとも自分があの場所にいれば、と願っただろうか。
“美しかったのだろう”炎に包まれ最期に微笑む仲間を見届けることさえできなかった彼女の無念がピークに達したところで、

曲調が一変する。憎しみと皮肉が溶け出す、嘲笑う歌声。
“響くように手拍子 リズムに乗って”
“音を鳴らすのは崩壊と 無機質に明日を奪う悲鳴/リズム刻むのは後悔と 無感情に明日を壊す矛盾だけ”
響が、自分が崩壊の音を鳴らしているという卑下をしているように聞こえる。戦いを止めることなどできるはずもなく、多くの後悔と無念を叫び、何故自分だけとも思ったことだろう、それでも無機質で無感情なリズムに乗り続ける以外に選択肢はない。祈りと後悔の堂々巡りだ。仲間を失うと知ってて、どうして戦い続けたいと思うだろう?生き残った響たちが一番の犠牲者かもしれないとさえ思える。

“孤独になる名声なんて いらないから返して”
響はただ戻りたいだけなのだ。みんなで笑ったあの時間がまた戻ってくれば、きっとそれ以上に望むものはないのだろう。孤独な不死鳥が口にする返して、というたった一言が胸に刺さる。

変調を繰り返し、不思議なほど自然な展開でロシアに引き渡された後のシーンに移る。終戦後、賠償艦になったときの話だ。
無理矢理笑うような、何かを乗り越えたような切なさを携えてロシア語が流暢にギターの伴奏に乗る。
“忘れないと胸に刻む響鳴”
かつて無残に散った仲間たちの勇姿を、第六駆逐隊との涙の共鳴を、胸に刻む。異国で一人生きる強さになった響鳴は、もう残された後悔と悲しみの意味を持たない。

絶望の底にいた時にも使われた“響くように―”のフレーズ。ロシアに渡されたこのときにも出てくる意味としては、響があの絶望を忘れていない、ということなのかもしれない。

“哀悼も”“律動と”“瓦解した”“特別な”“薄紅の”
それぞれの頭文字をとると“ありがとう”が現れる。ふわり、ゆらり、と響の中に蓄積していたドロドロとした深く行き場のない憎しみたちが優しく溶かされる。激動から拾い上げた教訓を心に刻み、響はゆっくりと絶望の壁を乗り越えていく。隠されたありがとう、の言葉は海底に眠る仲間へだろうか。

“希望なんて信じれなくても”
馬鹿馬鹿しくて、だった表現が明らかに前向きなものになっている。響の記憶に残るモノクロの絶望。これを語り継ぐことに意義を見出したように感じられる。
戦時中に絶望しかなかったのなら、託す未来に希望を願う。そんな強い願いが込められているようだ。

そして、第六駆逐隊の仲間が沈んだ描写に対応するようなシーン。
第六駆逐隊で過ごした期間は短かったが、響が得たものは間違いなく大切な大きい存在だ。黒い感情に塗れて忘れ去られそうになったそれらをそっと掬って抱きしめた響はたった一人で前を向く。第六駆逐隊のよっつ分の愛情を零すことなく、四人の思い出とともに未来へ歩くその姿はきっと孤独じゃない。

信頼と名付けられた余生の名前が誇りを持ち、
“響き伝わりますように”という歌詞が戦時中の響を労うようにこだまする。

響が過ごせなかった平和な日々を、未来で実現できるように。

夜が明けるように光射す未来へと向けて、響はこれからも声を枯らして歌う。

それが残響の使命だとでもいうように、誇りを持ちながら―

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