【SEKAI NO OWARI】The Colors埼玉3日目ライブレポート【ネタバレ注意】

この日、SEKAI NO OWARIがシンプルなステージ上で表現したのは恐ろしくリアルな人間の内面であり、抱きしめたくなるような愛情だった。

そしてそれを見事に表現して見せたFukaseのパフォーマンスと言ったら、バンドのボーカリストをとうに超越したものである。

1曲目から「Death Disco」が響き、檻のような格子で囲われたセンターステージをFukaseが囚われたように走り回ると、各方面からは割れんばかりの歓声が響いた。“悪は滅ぶべきだと思ってる”と低く感情的に叫ぶとその歓声は更に熱を帯びる。歌詞に似合わない熱狂的な狂喜の声が怪しげな赤い照明が織り成す不穏な雰囲気に拍車をかけていた。異様だった。

「Which」ではNakajinの“もしかして僕等が加害者?”というセリフ調の歌詞に対応する“面白いこと言うねぇ”のパワーが凄まじかった。気持ちがいいほどの皮肉が乗る声色にまたも嵐のような歓声が会場を揺らす。“この際魔女も踊ったらどうだい?”と問いかける彼のスクリーンに映された壊れたような瞳が妙にリアルで震え上がった。

狂気的な表情を見せたかと思えば、続く「眠り姫」では一変して純白の柔らかい歌声を響かせる。“そんなことを思いながら君の寝顔を 見ていたんだ”と優しくサビを歌い上げると一瞬だけ、これ以上ないほどの無邪気で無垢な笑顔を浮かべた。「Death Disco」や「Witch」で壊れたような表情で熱狂的な歓声を浴びていた人物と同一人物にはとても思えない振り幅だった。

Nakajinが自身のリードボーカル曲である「ドッペルゲンガー」、「Goodbye」を続けて披露すると、そのストイックな彼らしい詞と珍しいジャジーな曲調に会場は感激に包まれる。Fukaseのいない3人のSEKAI NO OWARIを楽しんでいると、その雰囲気を壊すようにFukaseが現れる。
1人で花道を歩きながらスクリーンに映されるカメラを煽り、間奏では踊り、サビでは観客を煽るようにマイクを持った両手を広げて「Food」を披露すると、会場はFukaseのパフォーマンスに釘付けになった。あまりにも圧倒的だった。

妊娠中、出産直後に多忙な生活を強いられながらもメンバーに助けられたことを涙ながらに語ったSaoriのMCは、この日のライブに愛というテーマを付加した。Saoriの口から出た“命より大切な仕事はないと思う”というFukaseの言葉の重さが、この日披露された曲中にも多く出てくる命に関する歌詞の意味を考えさせられる。

そんなMCの後に演奏されたのは「Mr.Heartache」だった。SEKAI NO OWARIの楽曲にも純粋な愛を歌うものは存在するのに、ここであえて心の痛みを“やあ、元気かい?”と歌うこの曲を選んだことに彼ららしさを感じる。

クラシカルなSaoriのピアノに乗せて歌われた「illusion」では“貴方の見ているその世界だけが全てではないと 皆だってそう思わないかい?”という問いかけが伸びやかに紡がれる。CD音源とは異なって、どちらかというと落ち着いて演奏された「illusion」はその歌詞の意味を考えさせるように丁寧だった。

囁くように優しく「蜜の月」が歌われると、纏う雰囲気を一瞬にして変えたFukaseは気怠げに椅子に深々と腰掛けて「Blue Flower」を披露する。“大きい声を出すなよ どうせ誰にも聴こえないんだから”と無機質に歌う姿に釘付けになる。終盤、おもむろに立ち上がった彼はウッドベースを手に取り、引きずりながら花道をゆらゆらと歩く。どこか重々しい雰囲気を纏ったその姿と反するようにサビは透き通るファルセットで、その乖離に理解が追いつかない。

ウッドベースをそっと置いたFukaseは、表情を変えていつもの明るい様子で埼玉公演初日にステージから落下したことを笑いながら話し、更に子供に質問されたときの正しい回答について頭を悩ませているという旨のMCをした。
“めんどくさいことをごちゃごちゃ考えている時間全てが愛だと思う”と結論付けると、そんな愛をこめた曲がある、と言ってNakajinの演奏するウッドベースに合わせて「エデン」を披露する。柔らかい笑顔を浮かべながらこれ以上ないほどの優しい声色で温かく歌う。静まった会場にウッドベースとFukaseの歌声だけが響くと、染み渡るような愛情が満ちた。

続いて披露された「MAGIC」は、「エデン」の後に位置付けされていたことで多大な意味を持った。“僕がさ、こんなに頑張って生きてきたのに 本当に大切なモノさえ失ってしまうんだね”と絞り出すように歌うFukaseの歌声に愛おしそうな表情を浮かべながら鍵盤を叩くSaoriが印象的だった。

イントロで歓声が上がった「スターライトパレード」では、本編最後でありながらこの日初めて《いつものセカオワ》を見た気がした。温かい愛とリアリティのある内面的な歌詞がFukaseのパフォーマンスを中心に今までと異なるベクトルから表現された今回のライブであったが、その根本は変わっていないということが証明された「スターライトパレード」であった。

恒例となった観客による「スターライトパレード」の大合唱がアンコールを求める声として会場を揺らすと、それに応えた彼らはアリーナを外周する形でアコースティック編成の「Dragon Night」を演奏する。Fukaseのマイクに観客の悲鳴じみた嬌声が入るライブ感と、サビの大合唱、それに対するFukaseの「すごいいいねえ!」が会場の一体感を最高潮にする。
“人はそれぞれ「正義」があって 争い合うのは仕方ないのかもしれない”“だけど僕の嫌いな「彼」も彼なりの理由があると思うんだ”という歌詞で、この日様々な曲を通して投げかけられた問題提起に1つ答えが見つかったような感覚になった。

アンコールへの感謝を述べたFukaseは、Nakajinの書いた曲に対して歌詞がこれだとラジオやテレビで流せないかもしれない、だから歌詞を変えようかと悩んだと語り始める。“でもメンバーは「君がこの歌詞がいいと思ったんでしょう?だったら変える必要は無いよ」と言ってくれた。だからこの曲は僕の大切な曲です”と愛しそうに言うと、当該の曲である「銀河街の悪夢」を演奏した。
直接的で救いようのない絶望の歌詞が、それでも“強くなれ僕の同志よ”と締めくくられる。感情的になるでもなく、変に優しいわけでもなく、自然体で歌われた彼の等身大な表現に感動が広がった。

本当に最後の曲です、という言葉とともに披露された「すべてが壊れた夜に」ではメンバー全員が横一列に並ぶ形でコーラスとして参加した。観客全員がシンガロングして演奏に加わる。決して派手ではないが、シンプル故に心を打つ。彼らの楽曲のメッセージ性と彼ら自身の表現力が浮き彫りになった。

メンバー3人が退場すると、Fukaseはステージに置かれたパソコンをいじるような仕草をする。ステージ後ろに映されたのは《What A Beautiful World》の文字。好奇心を秘めたような、少し壊れたような瞳でこちらを見、そのまま踵を返して退場したFukaseは最後の最後まで圧倒的なパフォーマーだった。

メンバーの内面がそれぞれ剥き出しになり、色とりどりの照明がFukaseの表現力や3人の演奏技術を照らしあげた2時間。どの瞬間をどの方向で切り取っても呆気に取られるほどのクオリティの高さで、畏怖や感動をもたらした。

最後に大きく映された《What A Beautiful World》の文字。それがどこか皮肉めいて見えるのは今回のアルバムの効果であると言える。しかしそれ以外に純粋な愛の意味を持つということがはっきりと可視化されたライブだった。

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