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【ネタバレ含む】障害とマイノリティについてフラットに描いた『雨夜の月』

rinです
いつも私のnoteにお越しくださりありがとうございます。

先日は『推しの子』のスピンオフについての感想ブログを書かせていただきました。

今度は、まだアニメにはなっていませんが私イチオシの漫画についてお話していきます。

今回紹介する『雨夜の月』は、漫画家のくずしろ先生による作品です。

2021年から、講談社の運営する漫画配信サービス『コミックDAYS』で連載を継続中です。

このお話は、聴覚障がいをもつ少女とセクシャルマイノリティである少女2人が、どのような関係を築いていくかにフォーカスされて物語が進んでいきます。

有り体に言えば、百合漫画っぽい要素を持っていますが、登場人物たちの悩みがかなり詳細に描写されており、一言に「百合てえてえ」と消費してしまうのが、とても勿体無い作品だと私は思っています。

今回のレビューには一巻のネタバレを含みますので、まだ読んでいないという人は、先に原作に触れてから、このブログを読むことをおすすめします。


1巻までのあらすじ&読み解き

ここからはrinなりの解釈で読み取ったあらすじを解説していきます。

主人公の金田一咲希は母子家庭で育ちましたが、別段不自由はしない生活を送る、高校進学を控えた中学3年生。

彼女は、通っていたピアノ教室の先生が妊娠12カ月で、結婚を控えていることを聞かされます。

ここで、咲希はめちゃめちゃ動揺しています。

それもそのはず、ピアノの先生は咲希にとっては恋愛対象として捉えていました。(咲希は自らがセクシャルマイノリティであることを公言していませんが、漫画内で描かれる表情などで表現されています。これがこの漫画のすごいところ。)

しかし、咲希は自らの恋愛観が一般的でないことを十分知っています。

ここで泣き喚くこともなく「おめでとうございます」とわかったような対応をしてしまいます。中学生でこの対応はすごい。

失意の中、家路をたどる咲希は不意にある人物とぶつかってしまいます。ぶつかった相手は黒上の綺麗な美少女でした。そのうちわかることですがそれが、奏音です。

その時、咲希は奏音が音が聞こえないということは知らなかったので、無言でのやりとりになります。

しかし、奏音の整った容姿が気になり咲希は「また会いたい」と望むのでした。

そして、2人は高校に進学してみたら実際は同じクラスで、席も隣同士。

咲希は「いいな」と思っている相手と運命的な再会を果たしたことにより、ちょっと、いやかなりテンションが上がりがちで、これ以降咲希の思考は作品の中ではほぼ、奏音のことを考えるためのものになります。

奏音は人を遠ざけていたのにも関わらず、グイグイくる咲希に絆されて、徐々に心を開いていきます。

『雨夜の月』今後の展開

「雨夜の月」というのは、空に浮かんでいるのに雲のせいで見えていないという意味の言葉です。

この作品では、咲希と奏音がお互いの言動の意味に気がつかないという行動が度々起こります。

物語の序盤においては、聴覚障がいをもつ奏音に対して、咲希が知らなかったことについて描かれます。

しかし、少しずつ物語が進むにつれて、奏音以上に咲希が抱えているコンプレックスがおおきなことに、読者は気付かされるのです。

1巻の中では咲希が明確に「女性が恋愛対象である」という描写はされていません。

しかし、ことあるごとに男女関係の話になると、咲希の曇った表情が描写されます。私はこの表情に「私は普通じゃないから私の思いは誰もわかってくれない」という意思を感じました。

すぐに自らの障がいをさらけ出すことのできたが、周囲とのコミュニケーションが不安な奏音、自分の内面的な欲求をなかなか表に出せない、けれど人一倍誰かを求めている咲希という構造で2巻に続いていきます。

私評

『雨夜の月』は俗っぽい見方をすれば見れば百合漫画です。可愛い女の子たちが出てきて、お互いに歩み寄っていく姿を我々読者が楽しむという娯楽になっています。

しかし、物語の登場人物である彼女たちの悩みは、現実世界を参考に作られているのです。

作者のくずしろ先生は、障がいやマイノリティーなどセンシティブな話題を扱っていますが、何かを悪とはせず、また「障がいの克服」などといった安易な感動は描いていません。

少なくとも私にはそう映っています。

それ以上に何もかも違う人間同士が、お互いの違いを乗り越えて理解し合う過程が丁寧に描かれており、その舞台装置として聴覚障がいやセクシャルマイノリティが用いられていると受け取りました。

また、くずしろ先生は取材に熱心な漫画家です。

先生は他の雑誌でも連載を持っており、将棋を題材とした漫画、漫画家を題材とした漫画などさまざまな作品を並行して手がけています。

どの作品も、綿密な取材の元高いクオリティが保たれており、この『雨夜の月』は先生自身が身内に聴覚障がいがあったことから、作品にしたものです。

ただ現実をなぞるだけではなく、マイノリティな人々が持つ悩みについて真摯に向き合った作品だと私は思っています。

明日はこの続きを書いていきます。



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