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似た者同士だからこそ、素敵だと思える人。

わたしには、わたしにとてもよく似ている友達がいる。
地元が同じ。進学した高校も同じ。大学と新卒時の就職先は違ったけれど、結局わたしが自分の会社に彼女を引き入れ、職場まで同じになった。

わたしたちはのほほんとした良いやつで、あまり敵を作らず、自分のコミュニティ内では楽しく過ごすことができる。
知らない人がたくさん集まる立食パーティーみたいなものは苦手で、人見知り、だけど人は好き。好奇心はけっこうある。

2人とも読書が好きで、いちばん好きな作家は村上春樹。インターネットが好きで、家でだらだらするのが好き。好きな食べ物トップ2も同じ、ラーメンとカレーだ。

身長もほぼ同じで、背格好はだいたい一緒だと思う。無印良品イズムのある洋服を好んで着る。髪の毛はめんどくさいから染めない。遊ぶときはだいたいスニーカーを履く。

書いていて恐ろしくなるくらい、わたしたちは似ている。その友達を、Tとしようかな。
本名そのままを書くのは、なんだか気恥ずかしい。


わたしとTが仲良くなったのは、同じ中学校からたまたま同じ高校に進学して、一緒にバドミントン部に入ったことがきっかけだった。
中学校でも同じバドミントン部だったのだけれど、実のところ、そこまで親しくはなかった。受験先が同じなのもしばらく知らなかったくらいだ。出身小学校が違ったので、ふんわりグループが分かれていたのである。

それが高校に入ると「同じ中学出身」「バドミントンの実力もだいたい同じ」という理由で、自然とダブルスのペアを組むことになった。

2人で話すことが増えると、びっくりするくらいわたしたちはうまが合うことがわかった。
いつも自然体でいられる、大事な存在になった。この年齢になっても、遊ぶ場所をあみだくじで決めようと提案しあえるのは、Tだけだ。

高校生の頃、バドミントンで強くなるために日誌をつけあっていた。そしていつしか、それはただの交換日記になった。

お互いマメな性格ではないので、高校を卒業してから交換ペースが年に1回、3年に1回とだんだん落ちていき、実はいまでもまだ続いている。10年以上続く交換日記。それでまだ1冊も終わっていないのが、わたしたちらしい。
おもしろかった本の話、恋の話、お互いの誕生日を祝うメッセージ。かつてのあわい青春がそこには染み込んでいる。

***

わたしたちはとてもよく似ている。
よく似ているからこそ、自分とは違う、Tの素敵なところがよく見える。それをまぶしい、と思う。

わたしが大学受験で浪人している頃、Tにされてびっくりしたことがあった。

Tは大学生になっていた。ガラケー時代でわたしはmixiなどもやっていなかったので、たまにメールを送るくらいのやりとりをしていた。
センターまであと2ヶ月を切ったくらいの頃、わたしの誕生日の夜のことだった。

インターホンが鳴り、「こんな時間に誰だろう?」と思いながら玄関を開けると、目の前に巨大なかえるがいた。
いや、それは大きなかえるの着ぐるみで、中身は(本人はそうとは認めなかったけれど)Tだった。

「Tちゃんからプレゼントを預かってきたよ。お誕生日おめでとう」とかえるは言った。
なんだか村上春樹の短編みたいな話だ。

そのあと夜の住宅街をわたしとかえるで歩き、公園でおしゃべりした。11月なのでだいぶ寒かった。でもかえるはどうだったのかな。もしかしたら暑かったかもしれない。

これは夢か、あるいは勉強しすぎて頭がおかしくなったのかとも思える状況である。でも写真が残っているから、現実のできごとで間違いない。うちの母など大喜びして、しばらくかえるを携帯の待ち受けにしていたくらいだ。

Tは、こういう本気のサプライズができる人なのである。

大人数でふざけて、ならきっとできる人も多いだろう。でもこれを1人で実行してしまうところに、Tらしさが現れている。
わたしが驚いて、本気で喜ぶと思ってやってくれたんだろうな。
Tはそういう人だ。

素直で涙もろいところも、Tらしくて良いなぁといつも思う。
わたしもTもどちらかというと、ちょっと自意識をこじらせているタイプだ。ただTは、こじらせ界の中ではトップクラスに素直なんじゃないかとわたしは感じている。冗談ではなく褒め言葉として。

ぐるぐると考えることがあっても、素直さもきちんと持っているから、人にやさしくできるし、いろんな人から好かれる。
もらい泣きはあまりしないわたしだけれど、Tの涙だけはうっかりもらってしまう。不思議な力。

そしてTがあることでがんばっていると、わたしもがんばらないと、と素直に思える。

ううん、ちょっと嘘かも。

やっぱりすこしだけ焦る。そして、わたしだってがんばれるんだからね!と奮起する。

Tががんばっていることをわたしはずっと知っている。だからわたしも、ずっとがんばっていられる。

たぶんお互いそんなふうに思っていて、人生の同志、のような感じなんじゃないだろうか。
そうであってほしいな。

いわゆる「よきライバル」的な関係性とはまたすこし違う。わたしたちは、一緒に何かをするのが好きだからだ。社会派の映画だって気軽に誘える。近所の公園で2人でラジオ体操をしてみる。文フリに同人誌を出してみようと画策する(そして一緒に挫折する)。

かといって、お互いに依存もしない。近すぎる友情は、いつか壊れそうで怖いと感じてしまう。でもわたしはTと一緒にいて、そんなふうに思うことは一度もなかった。

それは一緒に楽しいことやしんどいことを共有しながらも、それぞれの素敵なところを認め合ってこられたからなんじゃないかと、自負している。

***

わたしたちはよく似ている。
けれどもわたしたちは違う人間だ。
これから先の人生、それぞれどうなっていくかはわからない。
それでもわたしの中でTは、わたしにとっての素敵な人でありつづけるだろう。

10年モノの交換日記。
部屋を整理整頓するたびにひょっこり出てくるので、ときどき読み返している。
ある日のTは、小説の好きな一節を書き写して、「すてきな文章だったからりなに伝えたかった」と書いていた。
わたしはTの、こういうところが大好きだ。

#日記 #エッセイ #言葉の企画 #素敵な人 #友達 #人生を変えた出会い

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