「盆会(ぼんえ)」 ~ いかれたBaby ~ (3)

余白の匂い
香りを「聞く」と言い慣わす世界に迷い込んで十余年。日々漂う匂いの体験と思いの切れ端を綴る「はなで聞くはなし」 

前回の記事:「路面」 ~ 闘場(アレーナ)の香気 ~(二)

J-waveからその新譜が流れたとき、滅多にないことだが思わず仕事の手を止めてネットを検索していた。
人気モデルのデビュー曲。彼女が呟くように歌う日本語のレゲエソングを、ナビゲーターはあるバンドのカバーと紹介した。

聞いたことがあるような、そうではないような。
好きな曲だったような、それにしては初めて耳にするような。。。

Googleが、オリジナルを多くの人が名曲と呼び数々のアーティストがカバーしていると教えてくれる。なのに不思議なくらい私に触れた記憶がない

「ノーマークとは…」不思議な気分を残したまま、以来Spotifyで見つけたオリジナルバージョンとそのバンドのナンバーのシャッフルプレイが、この夏の私の定番になった。

少し遅めの梅雨明け、そして猛暑の始まり。

ある日Wikipediaを読んで、体が固まった。
毎日のように聴いているその音源は、1/4世紀も前にリリースされた 7 inch シングルレコード。
そして ー  さらに驚いたことには ー ほとんどの作詞作曲を手掛け、その個性的な声で楽曲に命を与えているボーカルは、2000年を迎える前に夭逝ともいえる若さで亡くなっていた。

2週間というもの私は何の疑いもなく、1990年代にこの世を去ったミュージシャンと日々交信を繰り返していたことになる。

あらためて聴いても違和感を感じないのは、時代を超える楽曲と、そして私の今の気分とのリンクか。この歌のリアルタイム、私はどこで何をしていたのだろう?大人だったのか子供だったのか。何を感じながら日々を過ごしていたのだろう?

滅多に使わないイヤホンを耳に都会の街を自転車で走っていると、レゲエやファンクに乗せた繊細なリリックが此処ではない、どこか遠い国から呼びかけてくるように聞こえる。虫の声やクラクションが重なる。インディゴの夏の夕暮れがシンクロする。街の光が音が、そして真夏の匂いが溢れ漂う。

車の排気、雨上がりの夏草、汗まじりのオーデコロン、焼き鳥を焼いている、八百屋の店先の熟れた桃、記憶の中の地下のライブハウスの匂い、ぬるくなったビール、南の国の煙草の煙、インセンス。。。

2019年の私の夏が、90年代の”いかれた僕”、そして黄泉の世界と同期している。

ある人が言っていた。生まれた波動は微かになっても消えることは無いのだと。私は彼の波動を確かにキャッチし、この夏を共に過ごしている。
もしかすると、思いもよらない縁ある魂たちと今私は共にあるのかもしれない。ぬるい空気の匂いの中そんな気配を感じたような気がした。

8月を迎えニュースは連日の猛暑を伝えている。
やがて高校野球が終わりお盆が明け、君はひこうき雲のむこうに帰ってゆくだろう。私はもう少しこの夏が終わるまでイヤホンを手放せそうにない。

Note:
モトーラ世理奈「いかれたBaby」(2019 / ビクターエンターテイメント)  
フィッシュマンズ「いかれたBaby」(1993 / ヴァージン・ジャパン)
Ochi-kochi
抜けの良い空間と、静かにそこにある匂いを愉しむ生活者。
香道歴いつのまにか十余年

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Ochi-kochi

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コメント1件

Ochi-Kochiさんの詩的な世界、
いつも心地よく拝見してます。
時期とも相まって…
早速、apple musicで聞いてます
素敵だな~!
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