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ともだち100人できるかも?

『つばめアルペン』 南 文夏
読了レビューです。

文字数:約1,400文字
ネタバレ:一部あり


・あらすじ

 実家のある関東から離れ、北海道の高校に入学した藤井ふじいつばめ。

 高校では仲の良い友達が欲しいと意気込んでいたものの、初日の自己紹介で大失敗。

 そんな彼女が起死回生を狙うのは、あやしい先輩から誘われた山岳部で──?

・レビュー

 友達が作りたいから山岳部に入るという、不純ながら切実な動機から始まる本作。

 多少なりとも自然に親しみ、それを入口にして山に登ろうとするなら分かるけれど、主人公のつばめはザ・素人だ。

 それは部長の鴨原響子かもはらきょうこも織りこみ済みらしく、体験登山に選んだのが札幌近郊にある藻岩山(標高 531m)を設定するあたり、かなり良いチョイスだと思う。

 つばめ以外にも2人が参加した体験登山は、美しい眺望と山頂でふるまわれた鴨原のアウトドア料理により、大成功を収める。

 かくして山を登る仲間となった部員たちの前に、2つの壁が立ちはだかる。

 1つは体力の不足。

 絶望的に体力のない部員がいて、校内でのトレーニングについていけないと自信をなくす。

 ここで不純かつ切実な動機から山岳部に入った、主人公のつばめが活躍を見せる場面は、10代の等身大らしくて胸が熱くなる。

 残る1つも難問で、たぶんこれが登山を始めにくい理由のNo.1、またはNo.2じゃないだろうか。

 まずは専用の登山靴がないと話にならないし、その他の装備品もふくめて基本的にどれも高い。

 参考に私の使っている寝袋、別名シェラフは秋くらいまでに対応するタイプで、たしか4万円だった。

 第1巻の巻末においても決して安くない費用が壁になり、新体制になったばかりの山岳部が解散するかという危機が描かれる。

 登山を一般化したと呼べる、しろ『ヤマノススメ』においては、そうした金銭的な話が出た記憶はない。

 一方でキャンプを主体にした、あfろ『ゆるキャン△』では安い道具でも工夫により、どうにか使えるのではないかと模索している。

 忘れてはいけない費用の問題について、主人公のつばめがどのように立ち向かうのか、今後の展開が気になるところだ。


 登山やキャンプをテーマにした作品は、それを可能にするための道具が必要だ。

 フィクションらしく華麗に流すのもアリだとは思いつつ、地に足のついた展開や工夫が描かれると、それは1つの知識として機能する。

 私たちは魔法なるものを使えないし、時空を越えて旅することもできない。

 だからこそ現実にできそうな事柄を、努力や知恵、工夫でもって実現しようとする姿勢に私は惹かれる。

 登山は一歩目を踏み出さなければ頂上に辿り着けないわけで、人の有する可能性みたいなものが、その足取りには宿っているような気がする。

 そして頂上に自分だけでなく、苦労を共にした仲間たちがいたならば、それはきっと素晴らしいことだ。


2023/11/08 追記

 第2巻では先述した安くない装備問題に対し、心の温まる解決策が提示される。

 思い返せば私自身、父親が若い頃に使っていた道具を利用しているからこそ、気軽にキャンプ趣味を始めることができた。

 親から子、というのは良くも悪くもな一方通行だけれども、部活となれば純粋な先輩後輩という間柄であり、それを提供した人の物語も気になるところだ。


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