鹿の解体から学ぶ「本当の強さ」
私は北海道で鹿を捌くお仕事をしています。
解体のお仕事というのは、獣をお肉にするお仕事です。
皮をとり、適度な大きさにバラしながら、骨や強い膜を取り除き、お肉にしていきます。
その過程で「バッコツ」という作業があります。
骨を抜くと書いて抜骨。
動物は内骨格で、骨で構造を作りその周りに筋肉がついています。
よって筋肉は骨につながる形で存在しており、お肉にするためには骨を抜く作業が必要になるのです。
動物からお肉にする
骨を抜くには、骨の周りに沿ってナイフを入れ、筋肉と骨の間を断ち切っていきます。
骨と筋肉の間にあるのは「腱」。
筋肉の終末にある腱を断つことでスパッと肉と骨が剥がれます。
とてもシンプル。
そして中でも難しいのが、骨と骨の間を切ること。
骨の間を切るというと、固そう、力が要りそう、バキバキって音しそう…というイメージがありますが…違います。
例えば足のスネの骨、𦙾骨(ケイコツ)をとる場合を考えます。
まずスネ肉を外します。
そこから太ももの大腿骨に向けてナイフを入れると、膜が出てきます。
この膜の上から、関節の位置を狙ってナイフを入れます。
ここかな?と思って入れてから、𦙾骨をまな板の手前に持ってきてテコの原理で力を加えます。
うまく膜が切れていれば、パキッという音と共に関節が外れます。
しかし、少しでも膜が切れていなかった場合、いくら力をかけても、聞きたいパキッという音は聞こえません。
解体に慣れないうちは、ポイントでない場所を切って、力任せに引っ張ったり押したりしました。
でも、やっぱりどれだけ力をかけても、力では押し通せないのです。
ここから、私は本当の強さとは何かを考えることになります。
ナイフをちょんと入れるだけでスパッと切れる、関節を覆う膜。
これだけで言うと雑魚キャラ中の雑魚キャラです。
何も強くない。
でもこの膜は、たゆむのです。
力をかけても伸びたり縮んだりして、力を吸収し、結果として関節が外れたり折れたりするのを守っています。
プスっと刺されない限り、どんな力をかけても平気な顔で絶対に破れない。
骨ももちろん、強いです。
骨は鉄骨とコンクリートのように、構造物と充填物から成る「硬い」強さがあります。
どんな力を受けても絶対に曲がらない。
折れない。動かない。
この骨が芯にあるから、筋肉は力点を得て力を発揮できるのです。
よって抜骨の過程では、膜と骨という2つの強い壁を乗り越える必要があるのです。
抜骨を通して考える本当の強さ
鹿の解体の一過程、抜骨を通して考える本当の強さ。
それは数万年かけて動物が行き着いた内骨格に習うことができると思います。
「動かない」骨と「動く」膜。
これこそが運動により食べて増えて生活をする生き物にとって、一番効率がよかったのです。
これを精神世界でいうところの強さに当てはめてみます。
そうすると、一生を通して変わらない強い芯(骨)を持っているだけでは、本当に強いとは言えないのです。
一本だけでは強いかもしれないけれど、それを繋げて、重ねた上で強度を保つには、たゆみが必要不可欠なのです。
強い芯の上に、思いっきりたゆむ薄い一枚の膜。
他者の考えを理解し、違いを受け入れ、それで持って「ありがとう」と言えるたゆみ。
この2種類の強さを持って生きていたい。
永遠に取れない𦙾骨の膜を探しながら、ふと思ったこと、でした。
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