いつかの夏 名古屋闇サイト殺人事件

著 者:大崎善生
出版元:角川書店
発行日:2016年11月30日
きっかけ:HONZの書評を読んで。
購 入:honto

「名古屋闇サイト殺人事件」は、通り魔的な犯行で全く関係のない女性が殺されたという事件概要だけはなんとなく覚えていたのだけど、書評サイトのHONZで見かけて、被害者が立ち向かった状況を知らずにはいられなくなり、読んでみました。

被害者に数学博士を目指す恋人がいたということ、さらに、被害者が犯人たちに伝えた偽の暗証番号「2960」という数字にこめられた意味。

「2960」というのは「にくむわ(憎むわ)」の暗号。普段から彼女は恋人と、4桁の数字を暗号にして言葉遊びをしていたという。

犯人たちに脅されても殴られても、最後まで生きる望みを捨てずに立ち向かった彼女。この数字が暗証番号ではないと分かればきっと殺される。でも本当のことを言っても殺されるかもしれない。いざという時、自分が「2960」にこめた意味を、彼ならば分かってくれるはず。

彼女から恋人への絶大なる信頼が伝わってきて、ぐっとくる。

案の定、捜査の過程では注目されなかったこの数字の意味に最初に気がついたのは、やはり恋人でした。

この事件のつらいところは、まだ続いているということ。

3人いた犯人はそれぞれ刑が確定したけれど(死刑1名、無期懲役2名)、うちひとりは別件で起訴され、裁判が継続中。

続いているのは裁判だけではない。本の中で実名で登場する恋人の人生も、続いている。彼は事件後、彼女と約束した数学博士を無事に取得し、大学で働いている。今30代半ばの彼が事件によって恋人を亡くしたのは26歳の時。そんな絶望的なことってあるんだろうか。本を読んだ後、こんなに落ち着かないことはなかった。これが、遠い昔の昭和の凶悪事件とかだったらここまで身近に感じなかったと思う。どうか、彼の今後の人生が穏やかでありますように。


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